入り口――古代人が書いた歴史小説と報告書

 さて「ファンタジー世界観構築に使える資料」を紹介していく本シリーズですが、最初に紹介するのはの資料(作品)になります。別にふざけているワケではなく、恐らくはここから入った方が即効性があると踏んだからです。


 また、これらの資料はラテン文字に分類されすが、中近世ヨーロッパはローマ時代から地続きですし、ルネサンスに入るとその影響は増大します。そういう意味でもさらっておいて損はありません。


 詳しくは紹介しながら解説するとします。


(なお今回、あらすじ等はググれば秒で出てくるので省いております)



・資料1

【アエネーイス】 著:ウェルギリウス (成立:紀元前一世紀)


 いわゆる「叙事詩」というやつで、ラテン文学の最高傑作と称賛される作品です。ざっくり概観を言いますと「古代ローマ人が書いた歴史ファンタジー小説」です。


 何故この作品を真っ先に紹介するのか。


 それは我々が歴史を参考にして世界設定を作り、小説を書く――――つまるところ(広い意味で)歴史小説を書くからです。なら偉大な先達の歴史小説を読んでみる事は、大いに有用でしょう。しかもアエネーイスは歴史というよりは神話の色が濃く、つまりはファンタジーもりもりですので、ファンタジー作品の参考にもなってしまいます。


 あれば適当な古代ギリシア・ローマ史の本に目を通してから読んでみて下さい。無ければ高校世界史でも十分です、今やWEBでも参照出来ます。そうするとウェルギリウスが「歴史をどのように使って」「どの程度ファンタジーを混ぜて」この作品を書いたのか、なんとなくわかります――――結論から言えばほぼファンタジーです。神話と、歴史上の人物をファンタジーで繋いだ作品であるとも言えます。


 これが何の参考になるのか。


 例えば史実Aと史実Bを用意し(AB間は関連が薄くても、あるいは全く無くてもよい)、その間をオリジナルストーリーで埋めて繋いでやれば、(あとは登場人物の名前を変えれば)それはもう立派なオリジナル小説になります。そういう歴史の使い方の参考になります。


 またこの作品はギリシア・ローマ神話を取り扱っていますが、これがのちのち中近世ファンタジー世界を作る上で効いてきます。というのもギリシア・ローマ神話は、各国言語の語源に加えてが盛りだくさんなのです。英語がロマンス語の影響を受けてるせいだとは思うのですが、ともあれ語源を知っておくと話を膨らませるのが楽になりますし、自分のファンタジーを書く際にも「この単語はこれ由来で~」みたいな設定を作る時の参考になります。



・資料2

【ガリア戦記】 著:カエサル (成立:紀元前一世紀)


 この作品は「カエサルが、私欲で始めた戦争を正当化するために書いた報告書」です。つまるところ、別資料から導き出される史実と異なる部分や、「お前それ本当か?」と疑問符がつく部分が散見されます。さらにカエサルにとって不都合な出来事は奥ゆかしく伏せられています。総じて、巧妙な欺瞞が含まれる報告書です。


 ではこれが一体何の参考になるのかと言うと、「凡庸な話を、面白い話として膨らませる」という手法が学べます。


 現代には小説が星の数ほどあります。中には似通ったようなストーリーのものもあるでしょうし、自分が書いた小説が、既存の小説とたまたまストーリーが被ってしまう事も珍しくないでしょう。「テンプレ」と言われるものについては特に。


 そんな中で差別化を図る時、ガリア戦記は一定程度参考になります。マジで面白いんですよ、軍記物として。


 事実を列挙するだけでは面白くないでしょう。現実をそのまま書き出しても陰鬱になるだけでしょう。そういった「つまらない現実」をスカッとする戦争活劇として読ませてくれるのがこの作品です。まあ前述の通り史実と異なる部分が散見されるのですが、そのギャップにこそ我々が学ぶべきものがあるわけです。


 しかも読み進めて行くとカエサルが正義の使者に見えて来ます――――実際は正義とはかけ離れた事をやっているにも関わらず、です。他の資料から見るとカエサルの正義や大義には盛大な疑問符がつくのですが、ガリア戦記を読む限り、カエサルは正義の使者に見えてしまいます。そういう恐ろしい作品です。


 ――――これはこう言い換える事が出来ましょう、「読者の思考と感情をコントロールする術に長けている」と。これが自在に出来たら物書きとして凄い事ですよね。そういう意味で、偉大な参考資料になります。


 こういう風に総括すると、筆者が高校生の頃に読んで惚れ込んだから紹介したかっただけなんだという個人的事情を除いても、有用な事がおわかり頂けると思います。ねっ?



・まとめ


 今回紹介した資料は、こう総括出来ます。「史実とは異なるが、それはそれとして面白い文章」と。両作品とも歴史を、あるいは自分の目で見てきたものを巧妙にアレンジした、ある種のファンタジー作品になっています(カエサルにはやや失礼な物言いですけどね)。


 つまりこの両作品から学び取れる事は、「ファンタジー作品の作り方」そのものです。……マジでカエサルに失礼ですね。


 ともあれこれを入り口として、次回からは実際に世界観を構築する上でベースとなるような資料を紹介していきたいと思います。

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