文化――避けて通れぬアレコレ
さて今回は文化に関する資料を紹介したいと思います。歴史は人が受動的にせよ能動的にせよ、行動を積み重ねる事によって紡がれます。そしてその行動に影響を与える基本ドクトリンとも言えるものが文化だ、という見方も可能でしょう。
特に中近世ファンタジーものは大抵異世界を舞台にしたものになるかと思いますが、その異世界の人々の行動もまた、文化に左右されるものと考えます。創作において我々の世界と全く違う文化を作るとしても、やはり我々の世界のそれを参考にした方が楽なのは想像に難くありません。
資料3
【聖書】
紹介も何も誰でも名前は知っているような書物ですので、ここに挙げるべきかは迷ったのですが……。ヨーロッパの文化はキリスト教の影響をモロに受けていますので、キリスト教を切り離して文化を語る事は不可能に近いと言っても過言ではありません。
「いや俺の作品は宗教色薄めにするから……」
そういう方もいらっしゃるかと思いますが、今後ヨーロッパ関連の資料を読む際に、さらっと触れておく程度でもインプットしておいた方が理解度が高まる、聖書はそういう位置づけだと思います。
最初は「まんがで読む」シリーズの旧約聖書と新約聖書でも良いくらいです。そのうち、資料を読んでいると何の注釈もなしに聖書からの引用があった事に気づいてイラッと来る事があると思います。その時にホンモノの聖書を読む。そんな感じで良いと思います(基礎教養だろ? みたいなノリで出てくるんですよ……)。
さて実際聖書を読むぞ!という気合の入った方のために軽く説明をば。
まず聖書は(キリスト教においては)旧約と新約に別れていますが、旧約聖書は「神とユダヤ人が交した契約」、新約聖書は「神と人類全体が(イエスを通して)交した契約」という位置づけになります。いずれにせよ、ものすご~~く雑に言えば「こういう事すれば救ってもらえますよ」「こういう行為は契約違反ですよ」という契約内容を、エピソード形式で書いていると言えます。
この「契約内容」を知った上で歴史を追っていきますと、「おいこれ聖書的にアウトだろ」という行為がガンガン出てくる事に気づきます。当時の人々の宗教との付き合い方、距離感、利用方法などが垣間見えますね。これは創作に活かしやすいかと思います。
また詩篇などは、苦難の中にあるユダヤ人たちが救済を渇望するような詩も収められており、こういったものも宗教との向き合い方の例として一定程度参考になるかと思います。
(注:念の為申し上げておきますと、筆者は非キリスト教徒です。布教の意図は一切ない事は明記しておきます)
資料4
【中世の聖と俗 信仰と日常の交錯する空間】 著:ハンス=ヴェルナー・ゲッツ 訳:津山拓也
こちらは「中世ヨーロッパ万華鏡」というシリーズの第2巻になります。1巻3巻もオススメです。
さてこの本は中世の人々の結婚観、家族観、生死観などを(キリスト教の観点から)取り扱っています。併せてそれらに関連した制度・法律なども解説されていますので、そこだけフォーカスして読んでもためになる資料です。
また後半部分では悪魔祓いについての記述もあります。我々にとってはファンタジーの存在である「悪魔」ですが、中世人がどう捉え、どう向き合い、どう利用したのかを知るのは一定程度有用だと思います。ここで本文から引用を。
[(前略)中世では悪魔が現実の生物として実在することに何の疑いも抱かれなかった。(後略)]
……モンスターとか悪霊の類との付き合い方だとか、ファンタジーに活かせそうな気がしてきましたね?
資料5
【中世ヨーロッパの教会と世俗】 著:フランツ・フェルデン 訳:甚野尚志
この本は、教会・修道院・教皇庁がどのような役割を果たしていたかを解説しています。
ファンタジー世界におけるこれらは、教会はスケベなシスターが居て、修道院はスケベな修道女が居て、教皇庁は全ての黒幕である教皇が居るという事が多いですが(偏見)、現実世界のこれらの組織の実態を知っておいて損は無い事でしょう。何せこれらの組織こそがキリスト教を布教・管理し、文化の変容と発展を担ったのですから。
資料6
【中世ヨーロッパの文化】 著:ハラルド・クラインシュミット 訳:藤原保明
創作人にイチオシの本なのですが、一番最後に紹介するのには理由があります。……この本、割と難解なのです。しかも48字×19行のぎっちり文字列が注釈抜いて449ページ続くという鈍器サイズの本です。
忍耐力が試される本ではありますが、例えば中世人の時間・空間の捉え方、思考様式といった、他の資料では得づらい情報が載っていますので、苦難を乗り越えて読む価値はあると思います。
個人的に好きなトピックは行動様式の部分です。人間にとって不可知で、ある種の魔境であった森や海といった「自然」がどのように克服されていったのか。またそういった環境の中で、神の助け無くば無力だった(そう考えられていた)人間が、どのようにして自立していったのか。そういった部分は、ファンタジー物書きに大いなるインスピレーションを与えてくれる事でしょう。
中近世ファンタジー世界観構築に使えるかもしれない資料紹介 しげ・フォン・ニーダーサイタマ @fjam
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