第6話

 チョコレートなんてなかなか手に入らないお菓子を好きになるから。

なんて、愚痴ともつかない言葉も気にせず、彼は貰ったチョコレートを嬉しそうに食べていた。

部屋に吹く春風が優しい。

勉強の時間よ、なんて声を聞く。

渋々立ち上がって彼は自分の部屋に向かった。


 そのはずなのだが、散々荒らされた部屋が目の前に広がっていた。

足元にチョコレートの箱がひっくり返り、星やハートの形のチョコが散らばっている。

大切だったおもちゃや本も、投げ飛ばされて、ぐしゃぐしゃに踏まれていた。


 ここはどこだろう。

よく知った空間なのに焦燥感ばかりが彼の内に湧き上がる。

顔を上げてはいけない。逃げよう。

そう思ったのだけど。



「少春」



 体が石のようになった。

気がつくと、大好きだったチョコレートを自分の足で踏んでいた。



「少春」



 声がずっと、床から聞こえる。

彼は振り返ってしまった。

そして、床の遺体と、柱に縛られた自分と目が合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る