第二九二話 希望を守る

同日、6時35分、横須賀。


「コンデンサー準備完了! 『大和』へ向けて輸送開始!」

「関東コンデンサー、予備コンデンサーも輸送を開始!」

「明石、『伊403』、『やまと』のケーブル接続中、作業終了まで20分」

「作戦『武御雷』、進行度90%に到達! 横須賀基地、予備電源に切り替わります!」


 その報告と共に、最後の電力を積んだコンデンサーも出航し、日本本土は一時的に全ての電力を消費した。


「後は現場に任せるしかない……幸運を祈るぞ……連合艦隊!」


 小堀は力強くそう呟き。正面に一つだけ残った、各艦艇の衛星による位置情報を見つめていた。




「工事自体はあと20分で終わるにゃ、それから、0655にコンデンサーを積んだ輸送艦が到着、全ての電力を大和に接続し、発射準備が終わるにゃ」


 日本中から集められた電力が、今ここに来る……。


「聞いてて分かるとおもうにゃけど、撃てるのは一回キリ、それを逃したら万事休すで全員仲良く爆沈にゃ」


 明石は軽く笑いながらそう無線機越しに言う。


「にゃけど心配することはにゃい。武御雷は、主砲自体が照準器の役割を兼用するのにゃ、有馬は発射準備が整ったら、スイッチの上部に付いたモニターにロックの文字が出るまで待って、そのタイミングで引き金を引けばいいにゃ。そしたら、後は全て機械が調整して、『大江戸』を吹っ飛ばすにゃ!」

「ああ、それなら安心だ。工事の方、頼むぞ」

「まかせ――にゃにゃ!? なんにゃ!?」


 明石の悲鳴と共に、『大和』の無線機からも、最悪な報告が飛び込んできた。


「こちら『陸奥』、ごめんなさい! 『大江戸』が想定よりも早く速力を上げて侵攻中、後20分程度で三原山ラインへと到達―――きゃあ!」

「陸奥!?」


 まずい、後20分じゃあ、コンデンサーの装備が間に合わない!


 三原山ラインを越えたら、ここが『大江戸』の副砲射程圏に入る。82センチ砲どころか、46センチ砲弾まで降り注ぐことに……。今はヨミのステルス機能のおかげでなんとかなっているが、水平線に俺たちの姿を見つけてしまえば、レーダーを使わなくとも射撃が可能になる。


「明石! 急いで!」

「やってるにゃ!」


 大和が急かすが、どう頑張っても、輸送艦の到着は繰り上げできない。


「こちら『アイオワ』、私の独断で、『大江戸』攻撃を中止、後退させて貰うわ! 貴方たちは、死んでもやらせないわよ」


 後退して、そのセリフは、まさか。


「全艦『大和』の前方へ集結! 盾になるわよ!」

「『アイオワ』よせ! そのまま避けながら砲撃を続けてくれればいい! そんなこと―――」

「何がそんなことだ!」


 無線に割り込む声、これはビスマルクだ。


「貴官が託されたその砲は、我々に勝利をもたらす唯一の光なのだぞ! それを最善の手で守るのは、兵器である我らとして当然のこと!」


 さらにクイーンエリザベス。


「ここまで貴方達に頼って来て、その父親であるロイヤルネイビーが醜態をさらしていいなど、あっていいはずがない!」


 そして陸奥。


「お願いよ、私たち日本艦は、これ以上日本本土が傷つく姿を見たくないの」


 一同の思う形は少し違えど、その全ては『希望の光』を守り通すことにある。

 そんな各国の英雄たちの姿が、旭日と共に『大和』へと向かってくる。その艦影がはっきりと浮かぶころ、『大和』の艦橋には警報が響く。


「『大江戸』三原山ラインへ侵入!」

「接続完了! これより到着したコンデンサーとの接続作業に入るにゃ!」


 艦橋外後方に目を向けると、数十隻の巨大輸送艦の上に、灰色の四角い箱型のコンデンサーがいくつも並べられている。


「大和! 異常があったらすぐに言うんにゃよ!」

「分かった!」


 明石の声も切羽詰まっている。一切の余裕がない。


「第一接続開始にゃ!」


 後ろで金属同士がぶつかる音が響くと同時に、大和がビクンと体を震わせ、俺のハンドガン型のスイッチのモニターに、電力接続開始の文字が浮かび上がる。


「『大江戸』発砲!」


 死神の鎌が振り下ろされる。


「第二接続!」


 そんな中でも、明石のコンデンサー接続作業は進む。


「きゃあ!」

「んにゃあぁ!」


 『大和』らを囲うように砲弾が着弾する。しかし、全面に展開している艦達のおかげで、『大和』の正確な位置がつかめないのか、着弾は遠い。

 それに反撃するようにして、前方に展開する艦たちが発砲。『大江戸』へと降り注ぐ。それを邪魔だと思ったのか、『大江戸』の主砲は若干俯角をとった。


「来るぞ!」


 俺が前衛の艦隊に告げると、46センチ砲弾、82センチ砲弾が前衛艦隊たちを叩く。


「『ゆきぐも』第二砲塔大破!」

「『時雨』轟沈!」

「『アトランタ』に直撃弾!」


 一斉射で、既に甚大な被害が出ている。本当に耐えられるのか!?


「第三接続開始! 全コンデンサー起動!」


 スイッチのモニターには、コンデンサー接続完了の文字が浮かび、続いて砲撃チャージ中の表示が浮かぶ。


「ヨミ! イージス『やまと』! 充電は満タンにゃ!?」

「こちらイージス『やまと』、原子炉の発電率向上中、あと34秒で最大チャージ終了」

「こちらヨミ、過充電を開始しています、完了まであと29秒」


 再び発砲音、そして今度は、砲弾とは別のモノも空中へと放り出された。


「敵! 飛翔物体排出! プロペラ式のドローンと―――きゃあ!」


 クイーンは、艦上に爆炎を躍らせながら報告する。


「『クイーンエリザベス』、『アイオワ』被弾! 炎上中!」

「『モスクワ』応答なし!」


 艦達を飛び越え、こちらに向かってくる影。


「目視で確認! 小型機、数23!」


 大和が叫ぶ。


「クソ、対空戦闘!」

「ダメにゃ! 大和は『武御雷』発射以外の余分な電力なんてないのにゃ!」

「じゃあこのまま滅多打ちにされろって言うのか!?」


 おそらく自爆型の小型ドローン。『大江戸』の隠し玉として最後まで取っておいたのだろう。こんなもの、日本の設計図にはなかった。


「あ、雪風が!」


 大和の声に海面を見ると、前衛の隊列に居た『雪風』が『大和』の方へと高速で接近しながら、対空砲を乱射している。おかげで撃墜機や突入進路を躊躇う自爆機たちだが、流石に駆逐艦一隻の防空力では歯が立たない。

 数機『雪風』を振り切って『大和』へと向かってくる。


「にゃ!? 圭!?」

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