間章 朝
同日 04時55分 呉
呉軍港には、海上自衛隊の艦艇はほとんどおらず、存在感を示しているのは、多くの人がイメージする姿とは異なる『大和』、そしてこちらも少し雰囲気の違う『矢矧』『雪風』。
とても2046年の日本の軍港とは思えない。
「有馬艦長、対空兵員、整備兵員、機関兵員、電探兵員、以下425名、乗艦完了しました」
「……ありがとう」
本来、『大和』の乗員は約3000人。2045年に蘇った時には、半数の約1500人で全力が出せるようになっていた。欧州出兵時の『大和改』では約1000人。そして今、『大和改二』では、約500人にまで乗員は減った。
規定人数より少ないのは、募集した一部の兵が、俺の指揮の下で『大和』に乗るのを拒んだからだ。本人が嫌がったのもあるが、親族や恋人など、周りが止めた者も多いらしい。それも当然だろう。俺は、つい最近、乗員の皆を危険に晒したばかりだ。それに、この任務も、上空援護があるとは言え、二隻の護衛で敵地のど真ん中へと挑み、海自の艦隊たちを打ち払った戦艦に挑むのだ。
「乗ってくれて、本当に、ありがとう」
俺が出来るのは、乗ってくれた皆のためにも、この戦いに勝つことだ。
「勇儀、準備できたよ」
「ああ、いつでもいける」
参謀席に姿を現した『大和』。その眼は真っすぐ前、艦橋の外にいる二隻に注がれる。
「こうやって見ると、本当にあの時みたい」
「……そうだな、それを意識して、この二隻を護衛に付けたんだからな」
今回『大和改二』が決戦の場に行くまで直掩を担当するのが、現代で再建した『雪風』と『矢矧』、天一号作戦の時、『大和』の最期の船旅に付き添った艦だ。
キューブの質力は、その兵器が持つ記憶と共鳴して力を増す。それに期待して、このような編制になっている。
「5時、出航の時間だ。行こうか大和」
「うん、『大和改二』抜錨!」
錨が巻き上げられ、重い金属音を響聞かせる。
「機関始動! 前進微速!」
煙突から煙が上がり、ゆっくりと『大和』の艦体が動き始めた。因縁のあの地を目指して。
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