第九幕 太平洋決戦編
第二三三話 本土防空の最前線
4月30日 沖縄普天間大飛行場
「お、おお! おおおお!」
私は、目の前に広がる光景に、思わずそんな声を上げる。
「吹雪はしゃぎ。この後すぐにここの指揮を取る人が来るから、早く整列しないと」
零の声も耳に入らず、私は目の前に並ぶ新型機たちに感嘆する。
「『烈風一二型』『墳式震電』『疾風』もいるじゃん~」
ここに集められたのは、ほぼ間違いなく発生する本土空襲に備えた機体たちで、日本の空を守る最重要航空戦力だ。もちろん、ジェット機も『F35』『M0』『F3』と新型ぞろい。
「各員整列! 臨時九九航空戦隊、臨時編成吹雪隊の指揮官となる、航空自衛隊作戦幕僚長を務める、大西中将のご到着だ」
普天間基地司令がそんな号令を出すと、一同はびしっと敬礼。将を出迎える。もちろん私も、それに倣う。
整列する兵たちの前に立つ大西中将は、マイクを受け取り、挨拶を始める。
「諸君、私は航空自衛隊作戦幕僚長であり、本土防空作戦司令部に所属する、大西辰二郎である。これよりこの大航空部隊の指揮を任された!」
私はこうゆう挨拶が苦手だ。さっさと終わらせてくれないかと、欠伸を我慢しながら聞く。
「ここは本土防空の要であり、最後の砦である! WASは予測通りフィリピン、台湾と北上し、遂に沖縄を射程に捉えた。既に沖縄民間人は本土へ撤収させたが、それは沖縄を明け渡す訳ではない!」
実際、今沖縄は開戦当時のハワイと同じように、民間人を非難させ、駐留米軍、自衛隊で要塞化されている。台湾から本土を狙う航空機を墜とす要所となっており、WASが占領を狙ってもおかしくない。
そして、沖縄は日本の絶対国防圏ライン。つまり、沖縄が落ちれば、次は九州だ。もちろん沖縄を防衛の最前線にするのは太平洋戦争中の用で不本意ではあるが、やはり守りやすく補給しやすい限界は沖縄なのだ。艦隊がボロボロの今は尚更。
「我々の仕事は、沖縄を陥落せしめんとする敵機を迎撃し、本土に爆弾を落とそうとする敵機を迎撃し、艦を狙う敵機を迎撃し、艦隊が復活し、反撃ののろしが上がるまで守り続けることにある!」
うんざりだ。まるで本当に1944年の日本のようで、士気も下がる。
「そこで、この部隊全体を統合して、『剣部隊』と呼ぶことにした! この名は聞いたことがあるであろう。終戦末期、『紫電』を駆使し、日本の空を守った先鋭航空部隊だ! 諸君らには、元祖『剣部隊』以上の活躍を期待する! 以上だ!」
そこで、大西中将は訓示を終える。それと入れ違いで、眼鏡をかけひょろりと背の高いスーツ姿の男が前に出て来た。身なり、覇気、それらから一発で分かった。こいつは軍人じゃない、政治の人間だ。
「私は、無所属議員の羽取です。本土防空の重要な任を受けて、政界より派遣されました。軍事のことも勉強してきているので、お役に立てると思います。作戦立案については、大西中将とともに行っていきます。よろしくお願いします」
兵からの反応はない。まあ、それも当然だろう、現場を知らない政治家が作戦にあれこれ言われても、「お前は何を知っている?」と言いたい気持ちになるってものだ。
「なお、清原吹雪少佐に現場指揮を依頼する。彼女の実績と腕は皆もよく知っているだろう、依存はあるまいな」
大西中将の発言に一同は頷くが。一人、それに意を唱える者が。
「いえ、現場指揮は尾田中尉に任せるべきです。彼は腕も立ち、十分指揮能力も保持しています。清原大尉の臨時昇給を取り消し、尾田中尉を少佐へ昇級、指揮権を与えるべきです」
羽取とかいう政治家だ。
「しかし、これまで清原少佐は数々の激戦で指揮を取っている。経験値も十分だ」
「ですがその結果、損害を出しています。日本の航空戦力は希少です、失う訳にはいきません。ですから、より判断力が優れる大人に指揮権を持たせるべきです。いえ、子供に指揮権を与えるべきではありません」
それが本音か。私は大きくため息をつく。しかし、ここで争っても面倒だ、それに尾田さんが代わりというなら、それに文句はない。政治家に外された、というのだけは気に入らないが。
「大西中将、良いんじゃないでしょうか。好きなようにさせて差し上げれば。誰が現場指揮を取ろうと、我ら『剣部隊』一同、本土を守ることには変わり有りません」
困ったようなイラついたような表情を浮かべていた大西中将に、そう伝える。
「そうか、分かった。君がそう言うなら……現場指揮は、尾田少佐に任せる。各員、解散!」
その一声で各々は自身の元場へと戻っていく。私は尾田さんのもとへと向かった。
「尾田さん、ごめんなさい。こんな形になっちゃって」
尾田さんの意見を聞かずに決めてしまったから、申し訳ない気持ちがあったのだ。
「まあ、部隊指揮を取るのは構わんが、正直空戦全体の指揮を取れるかは怪しいところだ。遠慮なく俺に意見してくれ、一応俺が指示したことにするから」
「ほんと、すいません。ありがとうございます」
「謝ってばかりじゃなく、さっさと機体メンテ終わらせて来い、整備長であることには変わりないんだからな」
尾田さんはそう言って、私の背中を叩いた。
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