第二〇〇話 ティータイム


現在、10時22分、ヤーデ湾、イギリス奪還作戦本部。


「ここまでくると、作戦を見直したくなるな……」


 俺、彭城長官、ベルト首相、ヒトラー、ビスマルク、大和、エンタープライズ、アリゾナ、加藤さんの面々で、机を囲っていた。


「成層圏からレーザーを撃つ飛行要塞に、無数の潜水空母だけでも手に余るというのに、推定同時展開機体数が70機前後で、36、5センチの主砲を持つ三段空母か……随分とファンタジーな兵器たちだな」


 ヒトラーがそう笑いながら言う。

 いやお前も大分ファンタジーな兵器計画してたやんけ……。


「それから、小型のロケットエンジンを持つ双胴機も」

 

 加藤さんが、そう付け加える。

 

「だったら、武蔵がくらったよくわからない砲弾もね」


 大和も便乗してそう付け加える。


「本当に、飽きもせず新型の開発を続けるな、WASは」

「もういっそ、軍事産業でもやればもうかりそうな気もするな」


 ベルト首相とビスマルクが、そう言ってため息をつく。


「それでこの空母、スペックは判明したのか?」


 彭城長官がそう聞くと、アリゾナが答える。


「アメリカの諜報部隊に寄れば、改サタン級空母『ルシファー』だそうだ、スペックまでは分からないが量産される体制はできておらず、姉妹艦を作る予定は無いとみられている」


 アメリカさんは優秀ですねぇ……敵の情報がポンポン入って来る……。


「じゃあ、警戒するのは一隻で良いということだな」


 ヒトラーがそう言いながら、首を捻る。


「何かお考えがおありでしょうか、総統閣下」


 ビスマルクは髪を帽子の中に仕舞い、白い手袋をつけた姿のままヒトラーに問う。


「余が思うに、この空母の戦略的価値は低いように思える」

「ここまで強力な航空機展開能力を持つのに、ですか?」


 赤城の問いに、ヒトラーは続ける。


「確かに一隻の能力は強力だ、だが本当に作戦に必要な艦を、こんな雑な攻撃に用いるとは思いにくい、この艦は作戦には組み込まれておらず、自由に動き回り、我々の戦力を削ぐための……そう、ハゲタカのような存在なのではないかと余は考える」


 弱り動かなくなった獲物を刈り取る肉食の鳥、ハゲタカ……。


「他に、この空母に対して考えがある人はいますか?」


 俺が聞くと、誰も何も言わなかったので、俺は話を進めた。


「では、ひとまず空母は置いておいて、アメリカからの追加支援についてです」


 そう言うと、ベルト首相はゴホンと咳ばらいをし、何かの資料を取り出す。


「えー2月18日にアメリカからの支援が届くとのことで、詳細はここに書いてある通りだ」


 皆でその紙を覗き込む。

 そこには、自由に使ってほしいという一文が添えられ、二つの名前が載っていた。


 『アトランタ』と『B29』だ。


「好きにつかえ、か……」


 俺はそう呟きながら、詳細を読みこんだ。

 内容をまとめるとこうだ。

 

 今回は艦隊は返してもらうが、輸送艦に積んだ無人の『B29』200機は好きに使い捨てていいよ。

 それと、おまけでWS艦の『アトランタ』も貸してあげる、こっちは沈めたりしないでね? じゃあ厳しいと思うけど頑張って、アメリカは応援してるよ。


 ってことだ。


「歩兵の支援は無し、か……本当に大丈夫なの?」


 大和は心配そうに聞いてくる。

 正直歩兵の支援が無いのは辛いが、『B29』200機の支援が絶大だ。


「無人の使い捨て戦略爆撃機、か……」


 俺はそう呟き、『B29スーパーフォートレス』の名前をなぞる。

 現在アメリカの主力戦略爆撃機は『B52Ⅼ』、爆弾搭載量や速度等でかなり優秀だが有人機の為、墜ちれば人的被害が大きい。

 そこで、アメリカは『B29』を再び量産し、無人機運用することを決定した。


「これじゃあ、まるで特攻機だな」


 彭城長官が、目を瞑り、腕を汲みながら、そう零す。


「無人だから墜ちても人的被害はない、だからあえて低空を飛ばし防空能力が高い敵の基地を叩く際、囮とすることで本命の『B52』は安全に爆撃できる」

 

 そのような運用方法でアメリカは人的損失を押さえてきた、世界大戦という一大消耗戦を乗り切るため、人員を失わないように考えた策だ。


「……これに文句を言っても仕方がないだろう、現状を確認し、次に取る行動を決めなくては、ブリテン島に居る兵たちも困るぞ」


 プライズがそう諭すように言う。

 その言葉に一同頷き、俺の方へ視線が集まった。


「それでは、現状のブリテン島奪還の前段作戦、クラシック作戦の現状を説明します」


 俺は机の上に地図を広げる。


「現状、陸上ではロンドンまで戦線を持ち上げており、キッカ作戦に向け、橋頭保をシェフィールドに設置するため、侵攻を進めています」

 

 陸の上では、ホーク隊の掩護も相まって割と順調に進んでいる。

 ハインケル長官の指揮の賜物で、こちらが想定していたよりも被害を抑えながら戦果を上げている。

 特に、『Ⅼ5セイバー』の戦車隊に打撃を与えられたのは大きい。


「ブリテン島の制空権については、ホーク隊を筆頭に奮戦、陸と同等のエリアについては完全に掌握済みです」


 この制空権確保が、圧倒的な陸の進撃速度を助けている。

 ほぼ休みなしで制空戦闘、近接航空支援をこなすホーク隊には恐れ入った。


「制海権については……」

「取れたとは言えないだうな」


 ビスマルクは、苦い顔をしながらそう絞り出す。


「全体には、海戦に勝利したため成功と宣言しましたが、空襲の件、それから……」


 俺は、言葉を詰まらせる。


「どうした? 何かあったか?」


 ベルト首相が聞いてくる。

 俺は窓の外に鎮座する英国艦たちに目を向けながら報告をする。


「ドイツ湾に向かっている途中だった『イラストリアス』、『アークロイヤル』の撃沈が確認されました」


 その発言に皆の動きが止まる。


「港に跳んできた一機の『ソードフィッシュ』から、腕時計に電報が届けられました『英国の命運見届けられぬこと、誠に残念に思う。我ら意思、女王陛下に継ぐ、百年越しの日英同盟に祝福あれ』とのことでした」


 この二隻は空母二隻のみで、WAS艦隊の追跡を振り切り海を渡っていたが、おそらく『ルシファー』のいる空母機動部隊の航空機にやられたものと推定されている。

 

 俺が言い切ると、勢いよくビスマルクは拳を机に叩きつける。


「すまない、退席させてもらう……」


 その後、そう言って部屋から出て行ってしまった。


「今はそっとしておいてやれ、奴も思うところがあるのだろう」

 

 ヒトラーがそう言って、俺に話を続けるよう促す。


「……とまあ、ひとまず制海権についてですが、取れてはいないという前提でこれからのことを考えないといけませんね」

「もう一度決戦を挑んでもいいが……」


 それは、少しきついだろうな。


「現在、沈没艦は『シュペー』『Ⅽ型』一隻『A型』一隻、中破艦が『武蔵』『陸奥』、小破艦が『大和』『加賀』『瑞鶴』『Z26』『Ⅽ型』『ハンブルグ』」


 資料をめくり、続ける。


「対してWASの損害は、『パール』『アメシスト』『シモノフ』『レプラコーン』、他量産艦では戦艦が五隻撃沈破、空母は撃沈破無し、巡洋艦以下の艦は数十隻の撃沈を確認していますが……」


 俺が言葉に詰まるのに対して、プライズが答える。


「戦艦は良いが、航空戦力がまったく削られていないな」


 そうなのだ。

 戦艦群にダメージは入り、『ルビー』級を二隻撃沈できたのは良いが、問題の空母は、『ベルゼブブ』『ルシファー』『サラマンダー』を始め、量産型の空母はほぼ無傷だ。

 決して艦隊決戦したいがあまりに航空戦を疎かにしたわけでは無い、無いよ?


「そうだな、艦隊決戦よりも航空決戦をした方がいいかもしれないな……砲戦の主力である戦艦たちは、『Ⅴ33』に痛めつけられ、万全とは言えないしな……」

 

 現在解析が進んでいる『Ⅴ33シヴァ』の新たなる攻撃手段、四機で『武蔵』『陸奥』に痛手を負わせ、一機で『大和』の左舷対空砲群を壊滅させたあの攻撃……。


「ともかく、陸の結果によるということだな」


 ヒトラーが机の地図を叩きながら言う。

 現在ブリテン島の陸上部隊は、橋頭堡をシェフィールドに築くために、現代戦車41輌、旧戦車140輌、その他車輌340輌、ジェット戦闘機20機、レシプロ戦闘機200機、爆撃機100機、人員8900人の日独露全軍を上げて進撃している。

 航空機で爆撃し、戦闘機で機銃掃射、その後戦車隊が蹂躙し、歩兵たちが進撃する、読んで字の通り全力攻撃だ。


「後二日もすれば、キッカ作戦が開始されると思います、それまでは艦隊の整備と、補給物資の輸送を続けていきましょう」


 俺のその一言で、今回の会議は幕を閉じだ。

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