第一五七話 イギリス海峡艦隊防衛戦
「さてさて、初の夜戦と行きますか」
「吹雪、随分ノリノリだね、そんなに興味あったの?」
私がワクワクしながら機体を動かしていると、零が話しかけてきた。
「うーんまあそうだね、興味はあったね、夜戦装備が無い機体で、どれだけ戦えるのかは特に」
基地で研究していた、夜戦用の『零戦五二型戊』はまだ試作中で、出兵には持ってこれていない。
「私は、夜戦は嫌いかな」
零はどこか寂しげな、恨めしそうな声で、そう呟いた。
「『B29』絡み?」
「……よくわかったね」
有馬から聞いている、零が恨めしそうに呟くときは、大抵過去のことを思い出している時だって。
「『B29』を、初めて迎撃しに上がった日も、確かこんな夜だったなぁ」
零は、さっきと同じ声で、そう話す。
だが、私はその話には触れない、そうゆう話は、有馬の方が得意だから。
「後で、有馬にでも話してみたら? あいつ、昔話大好きだから」
「……そう、だね」
零が小さく笑った。
その笑いをかき消すように、無線機に『イーグル』の一番機の人から通信が入る。
「接敵、数、視認できるだけで54機、機種、『S4ナイト』、『Ⅴ11ヴァーユ』」
『S4ナイト』は、夜間戦闘を可能にした双発攻撃機だ、夜間電探と、照明電灯を腹に抱えている以外、特に目立った点はなく、普通の魚雷や爆弾で攻撃してくる。
しかし問題なのはこちらではない。
「『ヴァーユ』?」
『Ⅴ11ヴァーユ』は双発の爆撃機で、対艦攻撃をした記録は無い。
「何か目立った特徴は?」
「とくに無いな」
……この夜に通常爆撃するつもり? でも、それなら『S4』だけでいはず。
何かしら企んではいるだろうが……。
「…………『ヴァーユ』を優先して撃墜して」
「いいのか?」
「嫌な予感がする」
そこで通信は一旦途切れる、その代わりに、前方から激しいフラッシュが瞬き始める。
『イーグル』たちが迎撃を始めたのだろう。
「さて、私達はこっちだね」
「そうだね、やっぱり最後の頼りは目に限るね」
そう、実は私たちは『イーグル』の向った編隊とは別の編隊の方向へ飛んでいた。
どうやらステルス性が高かったのか13号には映る事が無かったが、『三笠』に積んでいる、ステルス性を持つ機体や艦でも発見できる、五五号ではバッチリと見つけていた。
「機数8、機種確認……この機体って、もしかして『ブレ二ム』?」
『ブレニム』とは、イギリスが持つ双発爆撃で、高速性を売りにしている機体だ。
「でもこの機体、羽と機首にいかつい電探つけてるけど、そんな『ブレニム』いたかな?」
零も知らないとなれば、WASが改良した機体の可能性が高い、少し気を引き締めよう。
「行くよ」
私が呟くと、ほんのりと操縦桿を握る手が温まった気がした。
「『イーグル』八機は現在交戦中、吹雪君も、交戦を開始したか……あとは水の中だけみたいだぞ、三笠」
そう、凌空長官が私をよぶ。
「解っている、こちらも敵潜の位置をようやく把握しきった、ここから反撃開始だ」
ああそうだ、使い慣れないレーダーやソナーの感覚も分かってきた、ここからが、護衛用対潜特化型戦艦の本領発揮だ。
「後部対潜主砲、仰角調整、ソナー、潜水艦をオート探知、毎秒位置を知らせろ」
私が叫ぶと、後部のまっさらな主砲塔が旋回を始める。
「右舷対潜魚雷、発射準備完了、標的補足完了、並びに対潜主砲、標的補足完了」
私は振り返り、凌空長官に視線を送る。
「攻撃、始め」
「撃てぇ!」
長官からの攻撃指令が下ったことを確認して、私は力いっぱい射撃号令をかける。
それに反応して、右舷から三本の魚雷が発射され、後部の主砲が、重々しい音を立てて、低速の大きい砲弾が空を舞い、水中へと来えていく。
少し経って、砲弾が着弾した水底から、二つの大きな水柱が上がり、潜水艦と思われる鉄の塊が水面に浮かび上がる。
「魚雷到達まで、10秒……」
間髪入れず、魚雷の命中の有無を確認する。
「2、1、今!」
再び水面に大きな水柱が上がり、爆砕音が響き渡る。
同時に、『A型』が相手になっていた潜水艦も、爆雷に耐えきれず、爆沈した。
「水中、全標的消滅」
私がそう言った次の瞬間、無線機から鋭い声が聞えた。
「敵機、艦隊直上!」
無線で艦隊に、敵機の報を入れたのち、私は『S4ナイト』に攻撃を仕掛ける。
「艦隊、一斉回頭取り舵40度、対空射撃止め」
続けて叫ぶと、アリゾナの艦長である、コルト長官から返事が返る。
「対空射撃はしなくていいのか?」
「夜戦なら、対空射撃よりも航空攻撃の方が撃墜しやすいです」
私は気を取り直して、敵機の様子を窺う。
『イーグル』たちも、『S4』への攻撃を始めている。
「『ヴァーユ』の目的は結局分からなかったけど、変なことをされる前に、撃墜できてよかったね」
零がそう言う。
「うん、疑わしきは罰せよじゃないけど、わざわざ敵の術中にハマって上げる程、私達も暇じゃないからね」
「それを言うなら、疑わしきは罰せず、ね、」
私の言葉に、零が呆れた声で答える。
『イーグル』隊の皆には、『ヴァーユ』だけを集中的に狙ってもらったので空には『S4』しかいない、『S4』は輸送船などには効果的だが、護衛機がいる艦隊には、物足りない。
あ、ちなみに『ブレニム』の方は私が全部墜としておいた、電探を装備していただけで、そこまで驚くほどの脅威では無かった。
「さて、凌空長官、空の安全は確保できましたよ、海中はどうなりましたか?」
私はアリゾナから三笠に通信先を切り替え、聞いてみる。
「ああ、三笠が全艦仕留めた、海中の安全も確保できているぞ」
それらな、この戦闘は終了かな。
イギリス海峡艦体防空戦、完ってね。
08時47分、戦闘終了 損害 無し
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