第一四九話 トールの雷
俺が冷や汗を垂らしながら呟くと、凌空長官が言う。
「ああそうだ、電探に移った機体は、こいつだと推定されている」
まあこれだけデカい航空機なら、電探に移った瞬間に分かるだろうな……。
「大和が今日の朝、嫌な予感がすると言って、電探を全力起動した所、地中海上空に超巨大な航空機を発見した、だからこうして君を呼んだんだ」
凌空長官がそう続ける。
「いや、でも情報が分からない敵機を、どうやって対策するんですか……」
速度、武装、機種、目的が不明なのに、どう対策すればいいのか……。
「問題はそこなんだが……いくつか、先ほど分かったことがある」
ハインケル長官は気まずそうに言う。
「それは?」
ハインケル長官だけではなく、凌空長官と彭城艦長も視線を下げる。
「この機体、大和が発見する少し前にフランス空軍が発見し、情報収集に努めていたんだ」
……まさか。
「そして、その情報が約六分前に、私の元へ届いた」
そう言いながら、俺にUSBを投げてきた。
俺は何も言わずに、そのUSBを腕時計に差し込んだ。
読み込みに数秒かかり、完了すると、二つのファイルが画面に表示された。
それをタップすると、どうやら音声ファイルの様だった。
「不明機視認、情報通り、異常なほど大きい機体です」
「了解、予定通り、全機で不明機に向え」
「了解、12機全機で向かいます」
その会話の後、大きな警報音が鳴り響いた。
「ミサイル多重ロック! 全機ブレイク!」
「だめだ! 数が多すぎる!」
「あ、当たる!」
「ウァァぁ―――」
「こちら指揮官機! 今のミサイル攻撃で、八機が持ってかれた!」
「こちらスカイアイ! 全機反転、全力で離脱しろ!」
爆発音が響き、厳しい声が響く、それと同時に、新たな悲鳴も聞こえた。
「何だ、何なんだ!」
「どうした! 三番機!」
「敵の羽から、小型の航空機が!」
「ミサイルだ! 撃ってき――――」
「三番機! 応答しろ! 三番機!」
そこで通信は途切れた。
「なんですか、これ……」
俺が聞くと、ハインケル長官は目を瞑りながら次のファイルを開くよう催促する。
催促されるまま、俺はもう一つのファイルを開く。
「全機聞け、先に向かった12機が全滅している、攻撃は容赦するな、徹底的にミサイルを叩き込み、巨大な不明機を撃墜しろ!」
「了解、全機、長距離対空ミサイル射出用意!」
「射出準備かん――小型機だ!」
「何⁉」
「まずい、後ろを取られた! 誰か掩護を! えん―――」
「五番機が落ちたぞ!」
「各自で長距離ミサイル発射! 発射次第、小型機の対処に当たれ!」
爆発音とミサイルの射出音が響く中、悲鳴が入れ交じる。
「何なんだこいつ! 人ができる機動じゃないぞ!」
「いやだ! 死にたくない! しにた――――」
聞くのが嫌になるほどの量の悲鳴が、聞こえてくる。
「よし! 長距離ミサイル、五発発射したぞ!」
「よくやった! これであのデカぶつも……」
「どうしたスカイアイ、不明機はどうした?」
「不明機……以前健在、それどころか……」
「なんなんだ⁉ はっきりしろ、スカイアイ!」
パイロットの声が荒ぶる。
「不明機の手前で、ミサイル全て迎撃」
「な、なんだと!」
パイロットが力なく呟く。
「……畜生! 二番機、三番機、十番機、十一番機、続け!」
「何をするきだ一番機!」
「直接奴にミサイルをぶち込む!」
「まて! 無闇に近づくな!」
「よし、不明機が見えた! 全機、対空ミサイル全弾発射!」
凄まじいロケット音が聞こえる、一体何本撃ったんだ?
「発射数二十! これだけ撃てば、一本ぐらい当たる!」
パイロットが自信満々の声で叫ぶ。
「気をつけろ! 不明機に、高出力の電磁波を確認!」
その瞬間、鋭いビーと言う音が響く。
「ミサイルが……」
動画が無いから状況が分からないが、少なくともいい状況ではないことは分かる。
「ミサイル、全て撃ち落とされたぞ……」
「何なんだ、この機体……」
力ないパイロットの声と同時に、スカイアイからの声が響く。
「一番機! 再び不明機に高出力の電磁波を確認! 逃げろ!」
「あんなの、人が扱うもんじゃない」
「おい! 死ぬぞ!」
「あれは、トールだ、神の力だ」
「一番機!」
「ああ、まぶしい、トールの雷が、俺を殺しに来た」
「避けろ!」
「――――――」
そこで、ファイルは閉じた。
「その音声データと、解ったことをまとめた資料が、フランスから送られてきた」
俺はその紙を受け取る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『XXX(トリプルエックス)』
通称『フライングトール』
全幅1100m
速度;約900キロ ※フランス空軍との戦闘時
武装;高出力レーザー、対空ミサイル、CIWS、艦載機
艦載機;詳細は不明
『XQ―58Aヴァルキリー』戦闘機に似た機体
矢印の傘の部分だけのような形をした機体
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「『フライングトール』……」
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