第一三五話 自衛隊を舐めるな
その一言に皆困惑する、まあそれも当然か……。
「守りたいが、相手を傷つけたくない、その心がお前たちの戦闘を邪魔している」
かつての自衛隊がそうだった、戦争にならないように、敵国の兵士が死なないように警告し、威嚇し、それでも無理なら攻撃。
脅威を払っても、脅威を滅ぼすことはしなかった。
「でもそれじゃあ――」
「お前たちは、自衛隊を何だと思っているんだ?」
舞立の反発する声をかき消して、俺は言う。
「自衛隊は、人を殺さないで国を守る部隊だとでも思っているのか?」
舞立が絞り出すような声で俺に言う。
「で、でも、犠牲を最小限にする努力をしてるって……」
「それは、敵側の反発を抑えるためだ」
俺は間髪入れずに答える。
「敵の部隊を根こそぎ虐殺した方が効果的なら、自衛隊は躊躇いなくそうする、警告を無視するなら叩き潰す、国民に被害を及ぼすようなら地獄の底まで追いかけて銃剣でめった刺しにする……自衛隊は、お前たちが思っているほど善良な組織じゃない」
その言葉に、舞立は半泣きになりながら、地面にへたり込む。
「なんだよ……じゃあ、一体私たちは何を目指してきたってんだよ……」
肩を震わせ、絶望しているのか、落胆しているのか分からない様子で、目を擦っている。
「……お前たちは、自衛隊じゃない」
「じゃあなんだよ! こんな真似やめろってのかよ!」
舞立は、先ほどの自分の発言を忘れたかのように、右ストレートを繰り出した。
「いつまでも幻想に縋るなって言ってんだ」
俺は、舞立の拳を平で受け止め、グッと握りながらそう諭す。
「お前たちは自衛隊じゃない、でも学校を護るために居るんだろ、だったらそれでいいじゃないか、お前たちはお前たちの信念で戦えよ」
「でもそれじゃあ、聖泉の奴らは止められないんだろ……」
「そりゃそうだ、聖泉はおそらく普通の高校じゃないからな」
拳を下ろして、舞立は不思議そうな顔をする。
「何を……言ってるんだ?」
凌空長官が、俺たちだけをこの学校に送ったのは、二つの理由が予想できる。
一つ目は、万が一軍の関係者だとばれても抵抗が少なそうだから、二つ目に、WASの間接的な攻撃にさらされているから。
「あいつらが持っていた拳銃、WASのマークが刻まれていた」
「WASって、今世界中が戦ってる組織だよな?」
舞立も、WASの脅威を知っているらしい。
「そうだ、聖泉学園そのものか、もしくは村田がWAS関係の人間と繋がっているみたいだ」
七年前、第二次ホープ作戦で大国たちが大損害を被った、そこでドイツと日本も参戦するよう促されたが、WASからそれを妨げる工作をいくつも受けた。
防衛大臣や自衛隊の黒い嘘を流し、国民の反戦運動を活発化させるよう促したり、間接的にその人たちの場所を攻撃することによって、金を消費させ、参戦できないようにした。
聖泉学園の生徒たちの暴走も、之の一環だろう。
防衛相関係者の学校が、WAS側の生徒たちに占領され、騒ぎを起せば、防衛相の名前に傷がつく、それが今までずっと続いていたのだろう。
俺達軍からすれば、よくぞ守り続けてくれたと感謝しなくてはならないほどだ。
「それを知って、お前たちはどうするつもりなんだ?」
俺は腕時計で凌空長官と三人にメールを送りながら、舞立の質問に答える。
「聖泉に乗り込んで事情を聴いてくるさ」
「なら、私も連れて行ってくれないか?」
舞立は、拳を握りしめながら俺に聞く、きっと部下の仇を討ちたいんだろう。
「ダメだ」
「どうして!」
「ここから先は高校生じゃなく軍人としての仕事だからだ」
一般生徒を仕事に巻き込むわけには行かない。
「足手まといにはならならいから!」
「……さっきも言ったが、お前たちは自衛隊じゃない、横須賀高校防衛隊だ……戦うためではなく、守るための組織なんだろ」
俺は、FNの弾倉を確認しながら、舞立と目を合わせないまま話す。
「ならその意思を守り続けろ、お前たちはお前たちのやり方でこの学校を護れ、俺達は俺たちのやり方で、この学校を守る」
俺は一息入れ、舞立の肩を叩く。
「後は任せろ」
舞立は、悔しそうな顔をしながらも涙をぬぐい、顔を上げた。
「解った……後は任せます、兄貴」
そう言って舞立は、見事な敬礼をした、その顔に、先ほどまでの曇りは無かった。
「吹雪、圭、空、準備は良いか?」
校門で待機していた三人に聞く。
「いつでもどうぞ、分隊長」
空がいつもの調子で答え、後の二人もうなずく。
「ほんじゃ、ちょっくら仕事しましょうか」
ここから聖泉までの移動は、パトカーで運んでもらう。
「お願いしますね」
「了解です、聖泉までお送りします」
警察から、パトカー一台と運転手一人を貸してもらった。
「私は、聖泉の校門で待機しておけばいいのですね?」
「はい、それでお願いします」
助手席に俺、後部座席に後の三人が座っている、空と圭は比較的小柄なので、そこまで狭くないようだった。
「それでは出発します」
警官がそう言って、アクセルを踏込みんだ。
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