第六七話 沖合航行


「それでは航行を始めますので、参加者の皆さんは、巡視船『せんだい』に乗り込んでください」


 放送が入り、ぞくぞくと人が乗り込む。


「さて、俺も行くか」


 俺は士官帽をかぶり直し、『やまと』の艦長席に座る。


 WSは自力で航行してもらい、海自の艦のみ数名で動かす。

 俺と空、吹雪、そして『大和』の航海長、三浦さんが『やまと』に乗っている。


 現代艦のその多くで少人数化が図られていて、イージス戦艦も、通常の護衛艦より大きい割に、乗員数はそこまで多くない。

 『まや』型護衛艦は300人なのに対して、『はれ』型イージス戦艦は310人、アメリカのイージス戦艦である『アイオワ二世』級は、脅威の190人にまで少人数化が図られている。


 この『やまと』は、そんな『アイオワ二世』級の技術を借りたため、必要乗員数はは220人となっている。


「第三艦体も出港したかな」




 現在、13時40分、第四艦隊、出港。




「機関始動、機関出力40%、前進はじめ!」

「機関始動! 前進!」


 三浦さんが復唱し、パネルを触る。

 

 そうすると『やまと』の艦体が、ゆっくりと動き出す。

 左側で『大和』も動き出し、重い汽笛を鳴らす、それに答えるように、三浦さんも汽笛を鳴らした。


 この艦が積むエンジンは、どうやら普通の物ではないようだ。

 

 というのも、この艦のエンジンについては、国家機密レベルらしく、簡単には明かせないよう。

 エンジン室に整備員が必要ないとは聞かされていて、補給は滅多に行わなくても大丈夫と言われたが、国家機密になるエンジンとは果たして……。


「さて、ゆっくりと行きますか」


 モニターには、第一、第二、第三艦隊の状況が見える、随分とゆっくり航行しているな……第一船速だろうか?

 まだ『せんだい』は第一艦体の『あしがら』『あたご』『まいかぜ』『いそかぜ』『武蔵』『陸奥』『扶桑』『蒼龍』『飛龍』『陽炎』たちと並行して進んでいる。


 戦艦組からは、水偵と水戦、護衛艦たちからは、護衛用ヘリ、空母からはそれぞれ艦載機の『零戦』と『九九艦爆』『九七艦攻』が、急降下や低空飛行、様々な芸を見せている。


 一部はいつも通り自動操縦だが、八割ほどは、搭乗員の航空訓練も兼ねて、有人飛行している、本当は吹雪も、そっちに行きたかったらしい。


「吹雪はどうしてこっちに乗ってるんだ?」


 俺は、左前の席に座っている吹雪に聞く。


「私だって、最初はあっちに志願したけど、長官たちが「君は機体を壊すかもしれいから」って言うから……」


 吹雪はため息交じりに話す。


 あ~確かに、実際吹雪は、中国で『震電』を壊してるからな。


「まあ、やまとには『ps44』があるから、『せんだい』が来たら乗ってくればいいじゃないか」

「航空機とヘリじゃいろいろ違うし、そもそも、私はヘリの操縦資格持ってないから飛ばせないの」


 その情報は初耳だなぁ……。


 吹雪ってヘリの操縦資格持ってなかったのか……いや、だからなにって言うわけでは無いが、持っているものだと思っていた。


「『せんだい』が第二艦隊に移動したよ」


 空が報告する。


 俺は、モニターに目を移すと『あめ』『はれ』『ゆきぐも』『はたぐも』『赤城』『加賀』『瑞鶴』『阿武隈』『夕張』『雪風』『夕立』たちが、一艦隊と似たような動きをしている。

 一点違うところは、イージス戦艦が砲撃を行っていることだ、先頭には、明野さんが乗る『あめ』がいた。


「『赤城』『加賀』『瑞鶴』の航空隊は、群を抜いて高性能だったからな、砲弾が飛んでいても、ビビらず飛んでいられるんだろうな」


 航空隊は、魂のあるWSほどではないが、大戦の記憶を引き継いでおり、その記憶に刻まれた通りの動きができる。

 だから、飛龍の友永雷撃隊や、蒼龍の江草艦爆隊などは、史実通りの実力を持つ機体となっている。


「『せんだい』が、第三艦隊に移動するみたい」


 再び空が報告する。


 そして、第三艦体に『せんだい』が移動したとき、事件は起きた。


「第三艦隊『いずも』『かが』『しろわし』『長門』『三笠』『矢矧』『北上』『吹雪』『明石』……海自の正規空母か……」


 2020年、日本は『いずも』と『かが』の軽空母化を決めた、隣国の脅威が増したからだ。

 その空母化は成功し、隣国との軍事的衝突は避けられたものの、現在のWASの脅威が増す頃、すでに二隻の軽空母は旧式化しており、艦載機量でもWASの空母に劣ってしまうため、正真正銘の正規空母を、日本は作成することを決定した。

 もちろん、現在の軽空母で十分だと言う主張とは、真正面からぶつかった。


 しかし、小型護衛艦『むらさめ』が、『いずも』護衛航行中に、不審機に撃沈させられ、乗員数百名が死亡する事件が起きた。

 この時、約二十機の航空機が『いずも』らを攻撃、しかし『いずも』が搭載しているのは約17機、もしあの時、敵が全機を使って攻撃してきていたら、圧倒的な戦力差から、全滅する恐れすらあった。

 その事実を突きつけ、半場強引に、最新の四隻の空母を完成させた、それが『しろわし』型航空母艦『しろわし』『くろわし』、と『ずいほう』型軽空母『ずいほう』『しょうほう』だ。


 現在は『しろわし』だけだが、あと数週間たてば、ほかの三隻も就役する予定だ。

 ここまで一挙に艦を建造できるのは、中国とアメリカが、全面的に支援してくれているからだ。

 日本産の艦は品がいいということで、中国、アメリカに技術者、一部の技術、造船の手伝いをする代わりに、日本が造船する場合、労働力、費用を、手厚く援助してくれるという『日中米兵器共産条約』を結んでいるのだ。

 

 まあ、いまだに反戦主張の人からしたら、非難の対象になってはいるが……。


 そんなことを思い出しながら、『しろわし』型の運用の仕方でも考えていると、『やまと』の内部に、聞きなれないサイレンが響く。


「なんだ!」


 レーダー関連の前に陣取る、吹雪に尋ねる。


「右弦より、国籍応答色緑のジェット機三機、同じく、緑の航空機十一機、急速接近!」


 俺は嫌な予感がしたので、すぐさま指示する。


「警告射撃!」


 武装関連の席に陣取る空から、返事が返る。


「了解、撃つよ!」


 そうすると、前門の砲がゆっくりと右側を向き、爆音を響かせながら、現代の46センチ砲を発射する。


「戦闘機応答なし、IFFにも応答なし、進路そのまま!」

「有馬、やれ! あれは間違いなく、ロイヤルの航空部隊や!」


 三浦長官が叫び、俺のモニターに写真が送られる、そのジェット機は、日本機よりスマートだが、尾翼が大きい。

 その機体は、2019年に退役したはずの、英空軍のマルチロール機。


「『トーネードⅠDS』英空軍のジェット戦闘機や、ほかのレシプロ機は解るやろ?」


 レシプロの二種は、二次世界大戦中の艦上機、『フルマー』と『ソードフィッシュ』だ。


「大和、聞こえるか!」


 俺は隣を進む大和に、通信を繋ぐ。


「分かってる、対空戦闘だね」


 『大和』の主砲がゆっくりと動き。


「主砲三式弾、砲撃始めるよ!」


 大和の声とともに、主砲が火を噴く。


「零、巡視船に迎え! 長官たちに状況を伝えてくれ!」


 通信が終わると零の声が聞こえる。


「了解、二式水戦ででます、援護は頼みます」


 そうして、『大和』のカタパルトから、一機の水戦が発艦する。


「側面速射砲、ファランクスは敵機の攻撃に備えろ!」


 俺はそう指示を出す、大和はすでに、対空用高角砲の射撃を始めていた。





「なんでこんなところに……」


 私は、超低空を飛行しながら『せんだい』に向かっていた、ジェット機が出るということは、カタパルト装備、もしくは装甲空母が最低でも一隻、この辺にいたことに……。


「そんな近海にまで近づかれるほど、日本の警戒システムは甘くない、侵入してもすぐに発見されて、こちらに警告が出るはず」


 じゃあ、どこからこの航空機は出てきた?


「考えられるのは空母、でも本部から連絡は来なかった、基地を乗っ取られた? あり得ない、中国方面から飛んできた? 無理ですよね……距離的にも、機体的にも……」


 そう考えている間、一つの嫌な予感が過る。


「まさか、いやそんなものが……もしあれができていたとしたら、日本のイギリス遠征はかなり危険になる……最悪、艦隊が殲滅される可能性さえ……」


 嫌な予感がしながら、私は『せんだい』の隣にゆっくり着水、徐行で近づき、縄で『せんだい』に機体を繋げ、姿を実体化して、中に乗り込んだ。


「どうした零」


 彭城艦長が出迎える、今は、艦の解説役として、『せんだい』に乗り込んでいる。


「『やまと』が現在、ロイヤルの機体から攻撃を受けています」


 彭城艦長が、一度眉間をひそめたが。


「先ほどの砲声はそのせいか……零、そのロイヤル空軍はどこから?」


「……私の知る限り、現代の桜日のレーダーを潜れる空母は存在しません」


 私がそう答えると、彭城艦長は頭をかく。


「だとすれば、ロイヤルの最新ステルス空母か? これは早急に会議が必要だな」


 それを、私は否定する。


「多分、空母ではないと思います」


 彭城艦長は首をひねる。


「では、一体なんだと言うんだ?」


 私は一呼吸おいて口を開く。


「……特殊潜航航空母艦Ⅹ級『スレイブニル』」





「なんだ、その潜水艦」


 俺は、大和に教えられた潜水艦の名前を頭の中で探すが、そんな名前の潜水艦は聞いたことがない、現存はしないのだろうが、計画ぐらいなら、と記憶を探るが、記憶の中には見当たらない。


「知らなくても無理ないよ、私も、零から教えてもらっただけだから」


 もうすでに、敵航空機は撃滅し、追撃があるだろうから、警戒態勢で待っていたが、一向に来ない、それで思い出したのか、大和が口を開いた。


「言ってしまえば潜れる空母だね」


 『伊401』みたいなものか……。


「でも、艦爆、艦攻に、ジェット機を出せる潜水艦って、異常じゃないか?」


 『伊401』ですら、『晴嵐』のような水上機三機が限界、ジェット機まで出せるとしたら、かなりの大きさになるぞ?

 格納庫や滑走路、もしくは射出機を、艦内に収納できる大きさ……最低でも、200mは必須だな。


「全長210m、全幅23m、最高潜航65m、浮上時22ノット、潜航時16ノット、搭載機はたしか7機……だったかな?」


なるほどな、だから追撃を出せないわけだ、これ以上航空機がいないのだろう……しかし、襲ってきた機体の数は14機、必然的に二隻の潜水艦がいたことになる、二隻もそんなに大きな艦の侵入を許すとは……警戒網が甘いのか?


 ……そんなことはないと信じたいが、念のため、戻ったら警戒網の見直しを具申しておくか。


「大和、零に伝令、問題無シ」

「了解」


 そう言って、大和との通信が切れる、俺は息を吐きだし、帽子を脱ぐ。


「なれないイージス艦の指示おつかれ」


 吹雪が笑いながらこちらを見上げる。


「全部機械だと、感覚が狂うから、自分で狙いたいんだけどなぁ~」


 空はそうぼやく。

 今まで一昔前の艦を手動でやっていたわけだから、感覚が狂うのも無理はないか。


「それにしても、英はえらいもんをつくりやがったな」


 三浦長官は一人嘆く、まあわからなくもない。


 日本海軍の弱点というか、苦手としていたのが潜水艦だ、別に日本の対潜や、潜水艦の能力が圧倒的に劣っていたわけでは無いのだが、大戦中、潜水艦に被害を与えられた例は少なくない。


 そんな連合艦隊の天敵を、WAS側のロイヤルは強化した、つまり、俺たちがヨーロッパに来ることを知っているということで、準備しているのだろう。


 ……考えすぎか?


「欧州出兵、多大な被害が出そうだな、陸海ともに」


 そんなことを考えながら、俺は『せんだい』が、こちらまで来るのを待っていた、夜の会議が、どんなものになるか想像しながら。

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