第五四話 Y計画とナンバーゼロ
「Y計画? ナンバーゼロ? 知らないね」
吹雪はレンチを片手に首を捻る。
俺は書類に書いてあったこの二つを、整備長の吹雪なら知っているかもしれないと思い聞いてみたが。
「そうか……」
吹雪が知らないなら、あとは兵器開発部に聞かないと分からないか……。
「開発部に聞きに行くの?」
空が上についていたパイプをつかんで降りてくる、どうやらパイプ伝いにこの倉庫を回っていたようだ。
お前はここが、公園か何かと勘違いしているんじゃないか?
「空か、一緒に行くか?」
空はぶら下がっていた手を放し、3メートルほどの高さから飛び降りる。
相変わらず超人的な運動能力は健在みたいだ。
「うん、私の装備返してもらいに行く」
そういえばメンテされてるのか……。
兵器関連は吹雪率いる整備課が見るが、銃器関連は、自衛隊の銃器課が見るらしい。
兵器開発部の倉庫は銃器課の工廠の隣にあるのだ。
「行くか」
俺は空と航空基地を出て、反対側にある研究、改修ドッグに向かった。
「やっぱでかいな、この基地」
俺は横須賀湾に建てられた自衛隊、軍共同本部の軍部省前で立ち止まる、空も同じように立ち止まりあたりを見渡す。
「港、宿舎、会議室、工廠、滑走路にドッグ、完璧だね、全部そろってる」
そんなことをぼやき、再び俺らは工廠へと歩みを進める。
空の銃も計画の話も、工廠で働いている人に聞いた方が早いだろう。
「お邪魔しまーす」
俺と空はひとまず計画を聞きに行った、空が先に用を済ませろというのだ。
「おや指揮官殿、よくぞいらっしゃいました」
白髪で白いひげを生やす、工廠長らしき人物が出てきた。
「実は、お聞きしたいことがありまして……」
俺が聞く前にその人は答えてくれた。
「Y計画とナンバーゼロですね? ちょうど先日完成したばかりです」
話が早い。
俺と空は工廠長に連れられ奥に入る。
ちなみにこの人は、兵器開発部研究ドッグの管理者、永山栄吉さん、移動する途中で教えてくれた。
「これが、ナンバーゼロが示す新鋭機です」
そう言って電灯に明かりを灯す。
伝統が照らす先には、真っ白で『F3』のような、『su30』のような見た目の小型のジェット戦闘機があった。
「これは……」
「ナンバーゼロは、『零戦』を基にしたジェット戦闘機の開発指示でした。そこで我々開発部は『零戦』の機動性、軽量化の技術を応用し、作り出したのがこちら『Ⅿ―0Jジェット戦闘機』愛称は『ゼロ』、一様鹿児島の基地に試作機を、8月の半ばほどに送っています」
そう言って『Ⅿ―0J』、いや、『ゼロ』の説明を始める。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『Ⅿ―0Jジェット戦闘機』
三菱紅葉エンジン搭載
最高速度マッハ2、1 巡行速度900㎞ 航続飛行可能距離2920キロ
機首 17ミリバルカン砲二門 両翼内蔵 20ミリFB弾機関砲を一門ずつ
対空ミサイルハルパー イ号照準追尾型三八式誘導弾
30式空対空高速誘導弾 04式空対空誘導弾
最大で六本ミサイル搭載可能
従来のジェット戦闘機よりも装甲が薄く、ミサイル防御の性能が低い代わりに強力な機関砲と機動性を実現した。垂直離着陸は不可能だが滑走路距離が短いため、『いずも』や『かが』にも搭載可能な艦上機。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は新たな『零戦』の姿を見て感嘆する。
これを空自の連中が使いこなせるのだろうか? だが従来のジェット機とコンセプトは違うものも性能面ではかなり優れている、まさに現代の『零戦』とで言うべきか……。
しかしFB弾機銃まで着けるとは……余程この機体に格闘戦をしてもらいたいようだな。
FB弾とはファイヤーバレット弾の略で在り、通常の破砕榴弾に特殊な酸が混ざっている弾だ。
命中した際、その酸が機体の装甲版やボディーを溶かし、中に詰まっている徹甲榴弾が内部を破壊する。
「これ、何機作るつもりなんだ?」
「現在は150弱の量産を計画しています」
「……なら欧州遠征までに、空母分は頼む」
永山さんは頷き、もう一つ隣のドッグへ案内する。
次のドッグは航空機の倉庫ではなく艦用のドック、そこには……。
「なんだ……これ……」
そこには、護衛艦と言えず、イージス戦艦とも違う巨艦が存在していた。
「イージス戦艦、いやそんなサイズじゃない……この艦、この戦艦は一体何なんですか……」
永山さんはにやりと笑い、答える。
「『攻撃用イージス戦艦やまと』、これがこの艦の名前になります……政府からの新鋭艦建造計画、Y計画の品になります」
俺は、『やまと』のそばに置いてあった設計図を見て驚き、読み上げる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
攻撃用イージス戦艦『やまと』
全長198m 最大幅28m 最高船速29ノット 巡航速度22ノット
主砲 45口径46センチ単装対艦砲 一門
側面砲 72口径76ミリ速射砲 方弦三基三門、両弦六基六門
CIWS ファランクス 片弦六基、両弦十二基
ⅤLS 20セル
魚雷 38式四連装短魚雷発射管 二基
護衛ヘリ SP44二機搭載
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
空もそれを聞き、目を見開く。
「今ある装備、全部詰め込みましたって感じの艦だね……ほんとにこれ動くの?」
46センチ……『大和』の主砲と同サイズだ……そんなものをイージス艦に乗せたのか……率直に言って頭おかしいぞ。
「この艦の試運転はいつだ?」
俺が聞くと永山さんは。
「来週の観艦式です」
そういえば来週観艦式か……同時に進水式を行うのか?
「この艦は軍に知らせずに政府が指示した艦なんです、ですから来週まで通常の兵には知らせないようお願いします。あと、この艦の進水式は行いません、まるで最初からいたかのように使ってくれ、とのことで防衛省より言われています」
『やまと』は政府の指示か……政府は何を考えているんだ? 防衛以外は軍に任せることになっているのに、攻撃用のイージス艦なんて……。
ただまあ進水式をしないのは賛成だ、万が一そこを、敵や反戦の人たちに狙われたらたまったもんじゃない、都市伝説は増えるだろうが……。
そんなことを考えながら、俺は『やまと』を見つめていた。
「お前も、いつか沈む日が来るのか?」
――――――俺は、誰にも聞こえないほど小さな声で、そう投げかけていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます