外章 戦艦『??』の上で


「そうか、陸軍は壊滅状態か」


 少し残念そうな声で男は話す。


「は、しかし中国の半分以上は保持したままです」


 気を高めようと兵が付け加えるが、それを男は遮る。


「いやもういい、凛の戦車師団以外撤退させろ、陽動は十分だ」

「了解しました」


 兵が部屋を出ると、それと同時に男は一人の幹部を呼ぶ。


「アリア」

「はい、御用でしょうか」


 金髪をなびかせ姿勢を正す、その姿は威厳に満ちている。


「イギリスへ向かい、止めを刺してこい」


 男は世界地図を見ながら、冷たい声で命令を下した。


「了解しました、イギリス攻略の航空支援に出撃いたします」


 アリアはそう言った後、敬礼の手を下ろし、恐る恐る口を開いた。


「……あの子の様子は、いかがですか?」

「……今は眠っているよ」


 男は静かに、比較的穏やかな声で答える。

 アリアはそれ以上聞かず部屋を出ようとするが、男がそれを呼び止めた。


「……イギリスに『MG』を持っていけ、それから、増援の艦隊には『ルシファー』を加えることを許可する」


 アリアは驚いたように顔を上げ、男の言葉を復唱する。


「『MG』……調整は完了したのですか?」

「ああ、最終テストも終了し戦線に出れる、あいつがいれば陸での戦闘も安心だろう」


 男は、自身の眉をいじりながら告げる。


「凛の率いる戦車師団だけは中国に残すからな、その代わりにだ」

「了解しました……それから『ルシファー』については……」


 アリアは短く返事をし、再び男に聞く。


「『アザトース』の人間が試験的に作った『サタン』級の亜種だ、量産する気はないが実力を試してもらいたい」

「承知しました、それでは、失礼します」

 

 そう言って、アリアは艦橋を出た。

 

 一人残った男は、艦橋の窓から見える巨大な主砲塔を見下ろしながら呟いた。


「紀伊もう少しだ、もう少しでお前の願いを叶えられる時が来る、その時までは、力を蓄えておいてくれ」


 そう男が呼びかけると、小さな女の子が姿を現す。


 アリアほどではないが少し長い黄色の髪をツインテールに縛り、黄色い和服と赤い袴、手には戦艦の形を模したぬいぐるみを抱いている。


「おじいちゃん、呼んだ?」


 その姿を見ると、男はさっきとは正反対に温かい表情で話しかける。


「すまない、起してしまったか」

「大丈夫……大和お姉ちゃんにはいつ会えるの?」


 その少女は首をかしげて男に問う。


「もうしばらく待ってくれ、今年中には無理かもしれぬが来年の夏までには絶対会えるさ」


 少し少女は不満そうな顔をするがすぐに笑みに戻る。


「分かった、それまでいい子で待ってるね、おじいちゃん」

「ああ、そうだな」


 男は優しい眼差しでその子を見つめる、その目は自身の孫を見るような優しい目だった。

 

 しかし少女が姿を消すと、男は再び険しい顔になり、どこかに無線を繋ぐ。


「私だ……UACの起動準備に入れ……全装備を満載にしてだ…………艦載機は、試作中のUCAVで良い……同時に、SDMの準備も頼む」

 

       

           ―――――また一つ、世界に脅威が近づきつつあった。

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