第10話
「納骨はそれぞれこちらに」
案内されるがまま、江白は(※)骨灰盒を見ていた。
細かい装飾のされた木箱が二つ並んでいる。
箱のあまりの小ささに、江白はまたひとつ、よく分からない感情を抱いた。
職員はそんな彼に、申し訳なさそうに目を伏せる。
―――――――
※骨箱・骨壷。木彫りの箱も陶器のものもある。
―――――――
「納骨棚に安置する予定だったのですが……ご連絡がない間に棚が全て埋まってしまって」
「なんだって!?」
付き添った隣人は即座に噛み付いた。
職員は頭を下げるばかりで、解決策は特にない。
「他の霊堂にご自身で連絡して確認していただくしか……」
「ちょっと無責任が過ぎないか?金を払ってこっちは」
「もちろん、その分は返金します。どうにもならないんです。事故があまりにも大きすぎたんですよ」
隣人はうっと黙り込む。
疲れた顔の職員は、きっと似たような問答を他でも繰り返しているのだろう。
「……他の霊堂が見つかるまで、棚に入れなくても預かってはくれるんだろ?」
「いや……その……ご自宅で保管を……」
隣人はどうしても怒りがぶり返したが、突然会話をさえぎって、まばたきもない江白が職員へたずねる。
「連れて帰っていいんですか」
もう、その言葉とほぼ同時に、江白の手は骨灰盒へのびていた。
その腕を掴んで止めて、隣人は江白の目を見て首を横に振る。
「やめな。絶対にろくなことにならない」
「保管する場所がないのでしょう」
「それを今、どうにか話をつけようとしてるんだ」
「みんな同じじゃないですか。言い争いで場所を奪わなくても俺は大丈夫です」
あの日、身勝手さだけを背に乗せて、事故現場に走ったことなど、江白は思い返そうともしない。
「まだ未定ですが……納骨棚を増やそうという案は出ています。工事が必要ですので、時間はかかりますが、完成した際にはご案内しますので……」
職員は何度も頭を下げて居なくなった。
骨灰盒は結局、二つとも江白の手の中にあった。
「軽いなぁ」
とぼとぼ歩く帰り道、ふと呟いた声を隣人は聞いた。
何も答えなかった。
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