第3話

 新聞を受け取った。

トロリーバスが故障して、制御が効かなくなって、近くにいた人達を巻き込んで大破した。

市内の事故だ。

江白はその新聞をざっと読んで、すぐに捨てた。

知ってる以上の内容は書いてなかった。



「すみません、監督。降ります」



 短い言葉で、電話越しに伝え、江白は俳優の世界から消えた。



「君のおかげで小さい事務所だったウチも注目されるようになったからね。寂しいよ」



 事務所の社長はそう言いながらも彼を引き留めなかった。

受話器を持ったまま、何度か頭を下げた。

貯金は少しある。すぐに次の仕事を探さなくても死にはしない。

けれど、今はどうしても仕事をしていたかった。



「お久しぶりです」



 唐突に現れた江白の姿に、工場長は戸惑いながらも微笑みかけた。

彼がスタントマンになる前も、さらにもっと前も、彼をこの工場で雇っていた。



「いいよ、ちょうど人を探してたところだったんだ」



 工場長は少しだけ嘘をついて、江白を快く受け入れた。

そして、目を伏せて、彼に言う。



「息子さんたちのこと、気の毒――」

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