act.14


  物語は幕を閉じた。

  暗転の中、役者は舞台上に一列に並んだ。

  これから始まるはカーテンコールだ。照明が役者を照らし出し、拍手が鳴り出した。


 主役「本日は劇団有明月vol.31、デビュー公演『Funny Bunny』にお越しいただき誠にありがとうございます。ここで僭越ながら役者紹介させていただきます。舞台上手より」

 百合「対少女アサルトリリィ」

 厨二「深淵畏怖しんえんいふ……!」

 妹「愛妹私あいまいみー

 破壊神「夜露死苦青春よろしくせいしゅん!」

 後輩「白木しろきリラ!」

 主役「真中立男まなかたつお

 ヒロイン「月部つきべカンナ」

 先輩「結城空兎ゆうきあくと

 部長「炎焔演児えんえんえんじ!」

 イヤミ「大好耳聞おおすきじぶん

 モブ「縁下兼持えんのしたかねもち

 キグルミ「長田永劫ながた えいごう


 主役「長々と失礼いたしました。本日はご来場いただき誠に」

 皆々「「「ありがとうございました!」」」



   ◇ ◇ ◇



 破壊「ひゃー終わった終わった。やり切ったー」

 嫌味「ほんと終わったよ」

 花形「すみませんでした」

 嫌味「あ、いや別に月部を責めてるわけじゃなくてだな」

 百合「サイテー、ほんと嫌味なやつね」

 嫌味「別に間違いではない。ただ全員ミスっただけなんだから」

 部長「そうだ。気にするな! 俺たちはみんなでミスってみんなでやり遂げたんだ。だから気にするな!」

 花形「……」


  モブがグループチャットでスタッフからの連絡を確認する。


 モブ「もう出ていいって」

 部長「そうか!」

 百合「いこ、カンナちゃん」


 花形「……ごめんなさい、わたし、ちょっと今行けないです」

 部長「ん? どうしてだ。公演が終わってからお客さんと話すのは楽しい気分になるぞ」

 花形「……すみません。分かってはいるんです。けど、どうにも動けなくて」


 先輩「みんな先に行っててくれ」

 部長「そうか。……分かった!」


  二人を残し、他のみんなは舞台へと行き、観てくれたお客様と面会していく。



 先輩「──落ち込んでるのか」

 花形「もちろん。せっかく先輩が、みんながここまで繋げてくれたのに、最後の最後で失敗してしまいました。後味悪いですよね」

 先輩「そうか?」

 花形「そうですよ」

 先輩「お世辞にも公演は成功したとは言えない。いや、大失敗だろ。見た目もグチャグチャの不味いケーキを無理やり食わされたみたいなもんだ。ただ、これは月部だけで作ったものじゃないから、責任を感じる必要はない。もし、責任を取るとしたら公演中止を強く言えなかった俺にある」

 花形「そんなことないですよ」

 先輩「そんなことあるんだよ。それが俺の仕事だから。でも、クオリティは置いといて、最後まで通せてよかった」

 花形「そうですね……。けれども、私はどの顔してお客さんに合わせないといけないでしょうか」

 先輩「笑ってればいいんじゃないか」

 花形「あんなに失敗したのに」

 先輩「それでも笑ってなきゃいけないんだ。何かあったとしても、何も起こってないように振る舞わないといけない。俺たちは役者だから、観てくれる人を心配させたらいけない」


  ヒロインは自分の口を手で無理やり上げる。

  ただ離せばすぐに口角は落ちてしまう。


 先輩「……覚えてるか。月部が初めて部室に来た時のこと」

 花形「え? ……ええ」



   ◇ ◇ ◇



 花形「……ご、ごめんください」

 先輩「ん?」

 花形「ご、ごめんなさい」

 先輩「あれ、新入生? いやー、よかったよかった。今年全然来ないから不安だったんだよー。ごめん今女子もみんな出払ってるけど、よかったら入って入って」

 花形「……失礼します」

 先輩「ようこそ、劇団有明月へ。俺は副部長の結城空兎。あ、名前は芸名ね。よかったら名前聞いてもいいかな?」

 花形「月部……ウサギ、です」

 先輩「月部ウサギさん。セーラームーンみたいな名前だね」

 花形「たまに言われます」

 先輩「えっと、じゃあどうして演劇部に見学に来たのか教えてもらってもいいかな?」

 花形「……あ」

 先輩「あー、ごめん。いきなり質問踏み込みすぎたかな。面接みたいになっちゃったな」

 花形「いえ、その、答えます。えっと、じ……自分を変えたくて」

 先輩「うん」

 花形「私、友達がいなくて、あまり人と話したことなくて、もちろん一人が好きなんですけど、このままじゃダメだなって思って」

 先輩「それで演劇部に?」

 花形「……はい。私、その、昔から演劇が好きだったこともありまして。観てると本当に凄くて、心が満たされた気分になって。いつか、私もこうやって人を楽しませることがゆ、夢で……。プロにはなれないけど、部活なら私でもできるのかな、ってなって。こんな私でも演劇したら変われますか?」


 先輩「変わったよ」


 花形「──先輩たちのおかげです」

 先輩「何かを叶えることができるのは自分だけだ。誰かのおかげじゃない」

 花形「それ、どこかで聞いたことがある気が」

 先輩「あぁ、どこで聴いたっけな」


  先輩はヒロインの頭にポンと置くと、わしゃわしゃと撫でた。


 先輩「よく頑張ったな。俺たちみんな月部と演劇ができて楽しかったぞ」


  先輩も舞台上へと行く。

  残されたヒロインはクシャクシャになった髪を戻すようにして自分で自分の頭を撫でた。


 花形「……へへ」

 後輩「先輩、かわいいー」

 破壊「青春してるな」

 百合「カンナちゃん可愛いけど、男に取られるのはシャクだわぁ」

 厨二「恋する乙女の狂詩曲ラプソディ


  先輩が向かった下手と逆の上手から、四人が覗き見ていた。


 花形「え⁉︎ いつからそこに」

 後輩「最初からですっ!」

 花形「うわ……恥ずかし」

 破壊「お? これはくっつくやつか? くっつくやつなのか?」

 後輩「くっつくやつだよ!」


 先輩「お前ら何やってんだ」

 四人「「「「ギャッ」」」」


  と、四人娘の後ろから先輩が現れた。隣には妹も立っている。


 先輩「お客さんが待ってるだろ。早く行ってこい」

 三人「「「はーい」」」

 厨二「フッ……」

 先輩「みんな待ってるから、月部も行くぞ」


  妹がヒロインの元に駆け寄ってきて、手を取る。


 妹「いこ」

 花形「うん……! ──ありがとうございました!」



   ◇ ◇ ◇



 変態「『公演観に行ったぽよ。内容は正直何も覚えてない。気付いたら冷たい廊下で寝てた。完全に腹壊しました。クソです。二度と観にいかねぇ──けれど、久々に本気の生きた舞台だったと思う。あと女の子が可愛いかったから僕的評価は星2.5かな。星10満点で笑笑』」


  二つに分けて投稿された公演のレビュー。

  ついたいいね数はたった1のみ。

  クソリプオジサンは腹を掻きながら、スマホを尻ポケットに入れた。


 変態「……まぁ、久々に顔でも出してやるかな」

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