act.13
結局は騒がしい舞台の表裏。
舞台下手側のハケ裏にて、ヒロインが妹を看病していた。
義妹「……今まで無視してごめんなさい」
花形「ううん、謝る必要ないよ。もう気にしてないから」
義妹「わたしが気にするの」
花形「……そっか。じゃあ一つだけ、聞きたいことがあるの。私、何で愛ちゃんを傷つけたのか分からなくて。何かで怒らせたなら、私の方こそちゃんと謝りたい」
義妹「──兄さんに近付かないで」
花形「え?」
義妹「ずっと練習中、二人でいて、それが気にくわなかったの。だから兄さんから離れてよ」
花形「いや、いやいやいやいや無理だよ。だって役的にそういう設定なんだもん」
義妹「でも、その練習も明日で終わり。だから話さなくていいはずだから許す」
花形「あ、うん。お兄さん、結城先輩のこと大好きなんだね」
義妹「わたし、ずっと一人だったから。昔から身体が弱くて、友達もいなくて、両親も仕事ばかりでいなかったから。側にいてくれたのは兄さんだけだった」
花形「そうだったんだ……」
義妹「でも、わたしには、もう兄さんだけじゃないんだ。みんながわたしを見ていたなんて知らなかった。見てなかったのは、わたしの方だった。……すごく嬉しかった。ありがとう」
花形「愛ちゃん……。これからもっともっと仲良くなりたい。あと一年間同じ部活の仲間としてよろしくね」
義妹「うん。じゃあ月部先輩、一つだけお願いがあるの」
花形「何でも言って!」
義妹「ありがとう。これからはカンナお義姉ちゃんって呼ぶね」
花形「うん! ……ん?」
義妹「わたしのことをちゃんと見てくれてたなんて嬉しい。もう、わたしたちの家族だよね。お義姉ちゃんとして、お兄ちゃんと結婚してね」
花形「ちょ、ちょっと待って。け、けけけ結婚⁉︎ 話が飛躍し過ぎてない⁉︎」
義妹「え、だってこれから仲良くなるんだもん。カンナお義姉ちゃんとわたしはずっと一緒だよ。ほら大学生は結婚できるんだよ、大学に教会もあるし」
花形「待って待って待って、話が付いてけてないんだけど」
義妹「わたし、病気持ってるからカンナお義姉ちゃんに迷惑かけるかもだけど、頑張って治すね。あ、そろそろわたしの出番かも」
花形「いや、ちょっと待って。分からない。それに病気? その、病気って何?」
義妹「末端冷え性」
花形「末端……え、冷え性?」
義妹「はい、手足が人より冷えやすいんです」
花形「え、冷え性? 冷え性ってあの冷え性?」
義妹「じゃあ行くね。カンナお義姉ちゃん」
花形「いや、ちょっと、私の感動を返せ‼︎」
◇ ◇ ◇
それぞれが物語を進める中……ずっと一人残されたウサギのキグルミ。
そこに待望のあの人が帰ってくる。
後輩「お待たせしました! 真中先輩到着です!」
主役「待たせて申し訳ない。あれ、みんなは」
着包(全員、舞台上だよ)
花形「先輩⁉︎」
先輩「アリスか? アリスもここに迷い込んでいたんだね。無事でよかった」
主役「このセリフ……裁判所のシーンか。ちょっと色々と変わってそうだけど大丈夫。分かった、すぐ着替えよう」
主役、ウサギのキグルミの顔を取ろうとするが……取れない。
主役「ちょ、早く交代しないとなんだから早く脱いでよ」
着包(いや、ちょっと待ってね、脱げないんだ。脱ぎたい想いは山々だけど、脱げないんだ)
後輩「早くしないと先輩のシーン来ますよ。舞台はドンドン進んでます……!」
先輩「アリス、ここを抜け出して、俺と一緒に帰ろう」
後輩「って言ってるそばから来ちゃった」
主役「ああ、クソ。あ、ダメだ、クソって言ったからお腹が……」
後輩「早く行ってください……!」
花形「先輩は私の知ってる先輩じゃないんだよね?」
先輩「……」
主役「──そ、その通りだ。その男は偽者だ。この世界には君しか迷い込んでいない」
花形「……ん? あ、あなたは王子様」
主役「そうだ。僕が君をこの世界から連れて逃げよう」
破壊「……あれ、ここってキグルミの中に本当の王子様いるーとかじゃなかったけ」
嫌味「もう予想しかできないよ」
花形「私は……誰にも付いていきません。自分の作った世界だから。だから誰にも頼らず、自分の力で帰ります」
着包「ああ! 君は君の世界に帰ろう‼︎ ここに来た時と同じように! 僕と一緒に‼︎」
大声で叫びながら、脱ごうと悶えるウサギのキグルミ。
そして、とうとう頭が取れる……‼︎
花形「……だれ」
着包「僕の名前は長田永劫。劇団有明月に所属する二回生。今回の『Funny Bunny』の脚本を──」
花形「うん、もういいや」
後輩「──ふぅ、結局色々あったけど何とかなりそうだなー」
出番のない後輩が舞台裏から様子を見ている。とりあえず劇が成り立って……ギリいるので安堵する。
その後ろをクソリプオジサンがふらふらと横切っていった。
後輩「役者はいなくなるし、物はたくさん壊れるし、照明も付かなくなるし」
変態「うーん」
後輩「そういえば変なオジサンも現れたもんねー。それでもやり切るなんて、もはやこれは成功って言ってもいいんじゃ──ん?」
クソリプオジサンは下手側のハケ口へと歩いていった。
上手側からヒロインと先輩以外の全員が帰ってきた。
破壊「よっしゃー! 出番終了ー!」
嫌味「まだ公演終わってないし、これで初ステだからね」
後輩「あの、その……」
部長「どうした、白木後輩」
後輩「いや、そのオジサンが……!」
部長「オジサン?」
モブ「ねぇ、あそこに寝かせてたクソリプオジサンどこ行ったの?」
後輩「あ、あっちです」
部長「あっち?」
花形「──私、先輩に言いたいことがあるんです」
先輩「なに?」
花形「それは……」
変態「んー……」
花形「……え」
先輩の背後から出てきたクソリプオジサンに、先輩はまだ気付いてない。
後輩「あっちです……」
皆々「「「舞台上⁉︎」」」
厨二「帰ってきた変態!」
主役「月部が驚いて固まってるぞ」
破壊「くそ、パンチが甘かったか。仕留めてくる」
嫌味「おい、君。自然にな」
破壊「分かった!」
先輩「どうした?」
花形「いや、その……」
破壊「ああー、お父さんこんなとこにいたんだー。もうどっか行っちゃダメじゃなーい。殺すぞほんまー。すみませんねー」
破壊神はトドメを刺しながら、強制的にクソリプオジサンを排除した。
破壊神の登場でようやく気付いた先輩は、何とか劇を続ける。
先輩「あー、何だったんだろうな、今の」
花形「……」
先輩「それで、何か言うことがあるのか?」
花形「あ……え、あ……」
部長「どうした?」
嫌味「まさか、最後の最後でセリフ飛んだんじゃないの? 変なオジサンが入ってきたことに驚いて」
後輩「た、助けなきゃ!」
モブ「ダメだ」
後輩「でもぉ……」
モブ「これ以上は助ける必要ない。二人の世界を邪魔してしまう。僕たちの出番は終わりだよ」
後輩「うぅ」
義妹「──大丈夫。きっと、何とかしてくれる。だからわたしは信じて待つ」
花形「あ……」
先輩「──セリフが出ないのか?」
花形「……え?」
先輩「まだ台本に書いてあることを言うつもりか。ここまで来るのに台本にないようなこと、色々あったよな。もうお前は作り上げられた有栖川カンナじゃないわけだ。今、自分自身が思うことを心のままに言ってみなよ」
花形「私の、心のままに……」
花形「──先輩、ありがとうございました。私、助けられてばっかりで、何もできないのに……その、やっぱりだめですね。想いなんて沢山あるのに、上手いように言葉に、口に出ないですね」
先輩「そんなもんだろ。言葉って」
花形「全部、台本に書いてたらよかったのに」
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