act.12
破壊「──おらぁっ‼︎」
破壊神は襲いかかって来た輩を殴り飛ばした。
破壊「ちっ、どこで嗅ぎつけたのか知らねぇが、アタシは二年前にレディース辞めたんだよ。殺されたくなければとっとと去れ」
引退してもなお最強の破壊神。
囲んでいた族たちはワナワナと逃げて行った。
破壊「はぁ……どうしたらいいか分からねぇ。仕事はクビになるし、家はないし、どうっすかなーこれから。腹減った……死にそう……」
部長「いやー美味そうな焼きそばだ! ゲットした俺はラッキーだな! うん!」
破壊「……焼きそば⁉︎」
部長「ん? どうしたその怪我⁉︎ 紅生姜みたいに真っ赤じゃないか!」
破壊「お腹が空いてもう動けないんだ……殺すぞ」
部長「そ、そうか。なら、俺の焼きそばを分けよう。絶品だぞ」
破壊「美味い美味い」
部長「……どうして焼きそばって青春の味がするんだろうなー。知ってるか?」
破壊「さぁ、塩味だから?」
部長「あぁ、しょっぱいな。青春ってのはしょっぱいもんだ。それソースだけど。だがしかし、どうして青春って青い春と書くと思う」
破壊「は? 急に何言ってんだ。お前ぶん殴るぞ」
部長「物騒なことを言うもんだな。……ん?」
破壊「おりゃー!」
破壊神のパンチを悠々と片手で止める部長。
ピクリとも動かせない。
破壊「はっ⁉︎ アタシの拳を受け止めるなんて焼きそばやるな。けどアタシの本気はここからじゃ──」
部長「
破壊「春菜じゃない。アタシは、春菜だわ」
部長「ああ、そうだ! 春菜だ!
破壊「……えんじ」
部長「そうだ!
破壊「あ、うん。おう、久しぶり……東京に引っ越してなかったか?」
部長「今日はたまたま父方の祖母の家を訪れてたんだよ。ほら覚えてるか⁉︎ 一緒に遊びに行ったことあるだろー!」
破壊「おん、そうだな」
部長「どうした顔真っ赤だぞ!」
破壊「あ、赤くねぇし!」
破壊神は部長を跳ね飛ばす。
部長「どわぁぁ!」
破壊「あ、すまん」
部長「いやぁ、はっはっはっ! 春菜は昔から喧嘩強かったな! 今も健在じゃないか!」
破壊「燕児には勝ったことはないけどさ」
部長「負けてないだけで俺も勝ったことはないさ! で、春菜は今は何してるんだ?」
破壊「え、まぁ仕事とか。さっきクビになったとこだけど……」
部長「なるほど!」
破壊「そっちは?」
部長「俺は今、演劇部だ! 演劇楽しいぞ!」
破壊「あー大学生か。そうか」
部長「なんだなんだ。暗いじゃないか。春菜にその顔は似合わんぞ!」
破壊「いや……アタシクビになったって言ったろ? だから次何したらいいか分かんないっつーかさ。ほんとにこのままでいいのかなって。昔から喧嘩しか能がなかったけど、学生終われば無駄だったって分かったし。資格も学歴もないから何にもなれないし」
部長「だったら大学に入って演劇をやってみるとはどうだ」
破壊「は? 演劇? なんで?」
部長「血に塗れた真っ赤な生活嫌だろう。それにこれからどうするか悩んでるならば、ひとまず入ろう!」
破壊「入るか、バカ。急になんの勧誘だよ」
部長「青春の勧誘だ。青春をしよう。そうしよう。赤より青の方が爽やかでいいだろう」
破壊「いい加減にしねーとシバくぞ」
部長「なんで青春って、青い字を書くと思う」
破壊「は? なんでって……。あー、涙を流すからその色とか?」
部長「残念。涙は透明じゃないか」
破壊「じゃあ、答えはなんだよ」
部長「知らん!」
破壊「はぁっ⁉︎」
部長「なんで青い字を使うかは知らん!」
破壊「なんで知らないのに聞いたんだよ。無駄な時間過ごした」
部長「そうか? 無駄な割には俺の言葉に耳を傾けていたじゃないか」
破壊「いや、それは」
部長「なんで青い字を使うのか。それは自分で考えて見つけるんだ。演劇も同じだ。自分とは違う人間を、役を通して答えのない問いの自分の答えを見つけるんだ。だから、俺たちと一緒に考えてみないか?」
破壊「自分とは違う……いや、無理無理。アタシ、大学に入ってすらないんだから」
部長「勉強すれば入れるぞ!」
破壊「いや、無理だって」
部長「無理なんかないさ! 俺が通う大学は偏差値ピンキリだからどっか入れるさ!」
破壊「……なんでそこまでアタシを勧誘する。別に他にいるだろ」
部長「この春休みを抜けたらさっそく新歓活動なんだが、俺たちの部は存続危機だ。今年入らないと廃部する!」
破壊「いや、だからアタシ大学生じゃないんだって。入学しても来年だぞ」
部長「……あ」
破壊「おい」
部長「だったら来年までうちの部を残してみせるさ。だから一年後、俺たちと一緒に青春しよう」
◇ ◇ ◇
嫌味「くそ、どいつもこいつも浮かれやがって。あのイヤリングしてるやつとか絶対ビッチだろ。死ねこのリア充が。こんなのを毎日見るくらいなら大学入らずに、就職を選べばよかった。授業もつまんないし、サークルも──は?」
食堂で一人、ブツブツと言いながらを食べるイヤミの隣に、モブが座ってくる。
モブ「なんですか? 食堂混んでますので」
嫌味「いや、別に……」
モブ「あまり人の悪口を言わない方がいいよ」
嫌味「急になんすか」
モブ「言葉ってね、凄く危険なんだよ。簡単に口から出せるのに、一度出した言葉はもう元には戻らないんだ。言葉は人を傷つけるし自分を傷つける」
嫌味「いや、急に現れては何臭い独り言を言ってるんすか。気持ち悪い」
モブ「ごめんね。少し気になったんだ。なんだか見覚えがあって」
嫌味「新手の宗教の勧誘ですか」
モブ「宗教ではないけども、部活の勧誘はしようかな。どうですか、演劇部」
嫌味「いきなり来たな。で、なに演劇部? そんなのに入って何か就職有利になることが?」
モブ「ないよ。せいぜい面接で緊張せずに話せるとかかな」
嫌味「じゃあ入らない。そんなの入る理由がないんで。そもそも何で僕を勧誘したんですか」
モブ「部活の存続危機でさ、たくさん誘わないと大変なんだよ」
嫌味「それなら誰でもいいってか。こんな悪口言ってるやつでもさ」
モブ「いや、だから君を誘ったんだよ。悪口を言う君だから」
嫌味「は?」
モブ「悪口ってさ、何も相手を知らずに、見ずに聞きずに口に出すことなんて無理なんだよ。だから悪口を言う君はよく人を見てるってこと」
嫌味「それが」
モブ「演劇に向いてるよ。君の特技を活かしてみない?」
嫌味「いや、どうすかね」
モブ「演劇部はモテるよ」
嫌味「そこのところ詳しく」
◇ ◇ ◇
百合「うー、また彼氏に振られたぁぁ! 何よ、あんなにも優しくしてくれたくせに、『いや、処女はちょっと……』とか、何女々しいこと言ってんだよ! 私がめんどくさい女ってか、マジふざけんな!」
先輩「演劇部どうですかー」
百合「寄るなクソが‼︎」
先輩「え、えぇ……」
百合「来るんじゃねぇ!」
先輩「ごめん」
花形「先輩……私も手伝います」
先輩「え、なんだかわるいなー。新入生にも新歓を手伝わせるのは」
花形「私はもう部員です、ので。それに苦手克服、にもなるかなって」
たどたどしいヒロインが百合の目に映る。
これは……一目惚れである!
百合「エンダァァ! イヤァー!」
先輩「お前が言うんだ」
百合「ねぇ、だれこの子」
先輩「あぁ、彼女は今年から入った新入生だ」
花形「ど、どうですか、演劇部。一緒にしませんか」
百合「します」
先輩「ん、え?」
百合「そうか、男じゃなくて女の子にすればよかったんだわ。何よ最初からそうすれば良かったじゃない。男見ても何とも思わなかったのに、この子見てるとムラムラする」
先輩「え?」
百合「部活に入ります!」
花形「あ、や、やったー」
◇ ◇ ◇
百合「あれ、私だけ他二人と入部の毛色違くない?」
嫌味「知らないよ」
破壊「あれ、お前も入部の思い出とかねぇの?」
厨二「……ふっ、夢遊の果ての先」
嫌味「こいつはゴールデンウィーク明けにしれっと入ってたんだよ」
厨二「過去を吾輩は振り返らぬ」
嫌味「ないからな。──でも、まぁ過程はどうあれ、先輩方がいたから今の僕たちがここにいる。これは認めざるを得ないからね」
破壊「ちゃんと恩返ししてやらねぇとな。まさか浪人してまで大学なんて行くとは思わなかったし、しかもまさか演劇部に入るなんてなー」
嫌味「そうか」
破壊「青春ってなんだろって気になって夜しか眠れなくて。柄にも似合わない勉強までしてさ」
嫌味「それで大学に入ったのか」
破壊「この時点でなんか青春っぽくね」
嫌味「そうだな。青春してんじゃないの──っすー、え、今おいくつですか?」
破壊「21。お前は?」
嫌味「二十歳です……」
破壊「だな。だからアタシの方が人生先輩だからな。後輩」
嫌味「あ、はい……先輩」
破壊「そう固くなんなよ。たった一年違うだけだから気にすんな」
嫌味「うす、先輩」
百合「私たちも後輩がいる先輩なわけだし。先輩の意地を見せなきゃね」
厨二「フッ、任された!」
嫌味「だな」
破壊「よっしゃー、行くぜー!」
やる気満々の破壊神、舞台上へと行く。
嫌味・百合「いや、ちょちょちょ出番まだだから」
破壊「よっしゃ! アタシに何できるかな!」
突然現れた破壊神が演じる物語のボス、ハートの女王。三年組もさすがに唖然とするしかなかった。
破壊「……間違えた。暗転!」
暗転
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