act.10
嫌味「君……やってくれたな」
後輩「え、な、何がですか」
嫌味「シーンがいくつも飛んだのさ。城に行く前にヒロインの気持ちを整理するオーロラの丘のシーンも実はヒロインの願望から創造された世界だっていう伏線も全部全部なくなったんだよ」
後輩「え、あ、あぁ。わたしのせいで」
嫌味「そうだ、お前のせいだ」
花形「そこまで言わなくても」
嫌味「事実だろ」
後輩「──うわぁぁぁん‼︎ ごべんなざいぃぃ‼︎」
百合「大丈夫、大丈夫だからね……!」
後輩「わだじ、わだじ皆ざんのだめに、頑張ったんでずげど、うまくいぐどころか、皆さんの足を引っばってしまいましだー!」
破壊「あーあー、泣くのはいいけどとりあえず落ち着けって」
厨二「安寧の世界……」
百合「いくらなんでも言い過ぎでしょ。リラちゃんは頑張ったのよ」
嫌味「自分でも言っていただろ。足を引っ張ったって。こいつのせいで物語が破綻したんだよ」
後輩「ごべんなざいぃぃ」
破壊「お前、鼻水凄いことになってんぞ」
百合「こいつのせいって……自分は何かやったわけ? 何を頑張ったの? 誰にも迷惑かけてないからって何もしないことが一番偉いわけ? 口だけのくせに……いつも人のせいにするよね。これだから男は」
嫌味「男とか今関係ないだろ」
泣きじゃくる後輩を心配して、百合、厨二、そして破壊神はハケ横の方へと移動する。少しでもイヤミから離してあげたいからだ。
花形「どうしよう……」
部長「一度物語を戻すか?」
先輩「もういい。終わろう──公演中止だ」
先輩はお客様に謝罪するため舞台上へ向かいながら、全体のグループチャットに公演中止の連絡を入れようとした時だった。
妹がその場に倒れてしまう。
花形「愛ちゃん⁉︎」
先輩「おい、大丈夫か」
花形「熱い」
ヒロインが妹のおでこに手をやると体温より異常に熱い。熱があるみたいだ。
義妹「寒い……」
先輩「さっき下げた冷房が効きすぎたか」
花形「連絡します。愛ちゃんの様子見てあげてください」
先輩「頼んだ」
ヒロインが先輩のスマホを借りて、温度管理を担当する制作スタッフに連絡した。
制作(審)「温度連絡来た‼︎」
制作(暑・寒)「どっちだ‼︎」
制作(審)「温度を上げる!」
制作(寒)「くっ……!」
制作(暑)「しゃぁぁぁあ‼︎ 任せろぉぉ!」
タンクトップの筋肉質の男は、腹筋やスクワットなど筋トレしだす。
制作(審)「キレてるよー!」
制作(寒)「クールだね……!」
制作(暑)「うぉぉぉお‼︎ 俺の熱で……! 温度上げましたぁー!」
花形「……あれ、なんか寒いかも……」
百合「ねぇ、さっきの音なに?」
厨二に後輩の面倒を任せて、百合と破壊神がこちらに戻ってくる。
百合「愛ちゃん⁉︎ え、愛ちゃん大丈夫なの⁉︎」
先輩「あったかくすれば大丈夫なはずだ。昔から寒さには弱かったから」
破壊「どれどれ……あっつ! ぜってぇ変な夢見る熱さだぞ、これ」
嫌味「ほら見てみろ。無駄に挑戦するからこんなことになるんだ。僕は続けることは反対だったのに」
百合「まだ言ってんだ。別に公演中止することに賛成もしてなかったくせに」
花形「……えっと、」
部長「どうしたどうした、みんな暗いぞ。まだ公演は終わってないぞ!」
嫌味「終わったね」
部長「まだ終わっていないさ」
嫌味「終わ──」
先輩「終わらせる。……決めた。今度こそ公演は中止だ。もう続けることはできない。色んなもん壊れて、主役もまたいない。そして、役者が倒れた以上、続けるわけにはいかないだろ」
部長「でも照明は何故か直り、時間さえ稼げれば役者は帰ってくる。愛、体調はどうだ」
義妹「平気。少し休めばなんとか」
部長「だそうだ。いける!」
先輩「ダメだ」
部長「何故だ」
先輩「俺は舞台監督だ。公演を安全に打つことが俺の仕事だ。お前が部長だとしても、公演を続けるかどうか決めるのは俺が決めることだ。……妹が倒れたんだ。何があっても役者の安全を第一に考えないといけない。もう……物語を進めることはできない。中止する他ないだろ」
部長「みんなでここまで作り上げてきたんだ。まだ何かできることはあるはずだろ」
先輩「分かってる! 公演中止にしたら全て水の泡になることくらいは分かってるんだ。俺だって無駄にしたくない……」
破壊「え、無駄なの?」
先輩・部長「……え?」
破壊「え、だってここまで楽しかったし。そりゃ、無くなんのは残念だけどさ。でもこの3ヶ月でいっぱい学んだし、楽しかったし、めっちゃ青春したし。絶対無駄じゃねぇよ。ゆう、ゆう? ゆう……優勝だよ」
嫌味「有益っていいたいのか?」
破壊「そう、それ。だから別に中止してもいいぞアタシは。先輩もえんじもさ、アタシらにもそういうことは相談しろよな」
百合「わたしも大丈夫ですよ。女の子と楽しめたしね」
嫌味「別に僕はどっちでも」
モブも首を縦に振る。
部長「どうだ? 結城同輩。みんなもこう言ってる。お前が責任を負う立場かもしれないが、苦渋はみんなで飲むものだ」
先輩「……よし、ありがとうみんな。公演はここで中止にする」
部長「そうか。分かった、舞監が言うならそれに従おう」
義妹「──兄さん待って!」
花形「愛ちゃん⁉︎」
先輩「無理はするな、体調は戻ってないだろ」
義妹「平気。私は大丈夫。ほんとに少し休めば大丈夫だから。それより、結果、何も残してないのに、過程が大切だったんだなんて言って勝手に感動の物語にして終わらせないで。終わってほしくない。私のせいで中止になんてして欲しくない」
先輩「愛、そんなことはない。それに、お前が大丈夫だとしても主役の真中がいないんだ」
嫌味「そうだ、それに勝手なのは君だろ。これは皆の総意だ」
百合「は?」
嫌味「な、なんだよ……」
義妹「謝罪。勝手でごめんなさい。けど、真中先輩がここにいないのは、もしかしたら……ううん、私のせいだから」
先輩「愛のせいって……」
花形「どういうこと?」
義妹「私……ずっと声が出なくて、このままじゃ兄さんに、他の人に迷惑をかけると思ったから、昨日の夜こっそり練習していたの、大きな声が出るように。そしたら真中先輩がやって来て──」
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