act.9


 部長「──あぁ、教えるけど僕の頼みを聞いてくれるならね」

 花形「聞きます。私はここから一刻も早く抜け出したいので」

 部長「なら話は早い。君はね、この世界の真実を解き明かす鍵になるのさ」

 花形「世界の真実を……鍵?」

 部長「そうだ、あの暗い森を抜けた先、そうちょうどあの光が差す──ん?」



 制作「ダメです。勝手に入られたら困ります!」

 変態「僕、客だよぉ? 別に構いやしないだろ。椅子椅子……あ、これ借りるか」


  受付の椅子をぶんどる変態味がすごいオジさん。

  それを勝手に客席通路にあたる一列目センターに置いて座る。


 先輩「なんだ?」

 嫌味「なんかヤベーの入ってきてるみたいだけど⁉︎」

 後輩「じー……ハッ⁉︎ あ、あの人……クソリプオジさんですっ!」

 先輩「クソリプ……は?」

 百合「は、マジで⁉︎ 今来たの⁉︎ てか、このタイミングで⁉︎」

 先輩「クソリプオジサンって、あぁーあいつか」

 百合「そう。わたしたち女子部員のツッタカターをチェックしては、気持ち悪いリプを返してくる変態野郎。通称クソリプオジサン」

 後輩「私もこの前写真付きでDM来て怖かったです」

 百合「しかも、公演終わりの役者面会ときたら、『え、ちょっとその姿エロいね。あのセリフよかったからちょっと僕にやってみてよ』とかで言い寄ってくる。毎回!」

 破壊「ほぇー、そんな奴いんのか。きも」

 百合「わたしたち女の子が狙われているからね、要注意人物よ」

 嫌味「君も危険人物だけどね」

 百合「特にあいつのお気に入りがカンナちゃん……。今舞台上に立ってるのもカンナちゃん。カンナちゃんが危ない!」

 先輩「さすがに公演中だし大丈夫だろ……よな?」


  みんな、改めてクソリプオジサンを見ると、スマホを掲げてカシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ


 皆々「「「めっちゃ写真撮ってる……⁉︎」」」


 制作(長)「お客様、写真撮影はご遠慮下さい……」

 変態「え、ダメなの」


  製作陣をまとめるスタッフの長が直接注意しに出てきた。

  対応に不満を持ったクソリプオジサンは文句を言いながら何かを食べ始める。


 制作(長)「飲食御遠慮ください」

 変態「ええー」


  それでも懲りずに食べている。


 制作(長)「いや、だから飲食御遠慮ください」

 変態「え、ハッピーマーンだよ?」

 制作(長)「ハッピーマーンダメです」

 変態「ハッピーになれるんだよ。ハッピーマーンの魔法の粉でハッピーになれるんだよ」


 薬物「薬でもやってんの?」

 破壊「あれの美味しさはまさにだぜ」


  クソリプオジサンは瓶を懐から取り出すと、酒まで煽り出した。


 制作(長)「飲酒もご遠慮下さい……!」

 変態「えぇ、これもダメ」

 制作(長)「はい、当然です」


  クソリプ、煙まで吐き出す。


 制作(長)「喫煙も、」

 変態「ブッブー、これは煙草じゃなくてベイプですー。プップー」

 制作(長)「このクソがぁ!」

 制作「「「制作長! 落ち着いてぇ‼︎」」」


  制作長がクソリプオジサンに掴みかかろうとするが、他の人に止められる。


 変態「てか、なんか暗くね? ……これ照明付かないの? あーはぁい!」


  クソリプオジサンが手を叩くと、壊れて付かなくなっていた照明が直った!


 皆々「「「えぇ⁉︎」」」

 後輩「点いたー!」

 破壊「光だー」

 厨二「神の威光……‼︎」


 変態「『なんとか無事に入れた、公演なう。』と。え、てか寒くない? ねぇお客さんそう思いません?」


 先輩「どうなってるんだ、あの人は」

 嫌味「そもそも客が動じなさ過ぎないか?」

 先輩「ここまで全部演出なのかと思ってるのかもな。あまりにも酷い出来を堂々と続けているから……」


 部長「あー暗い森に明かりが付くとは驚きだな! これはきっと君を祝福しての奇跡に違いない! さぁ、パーティーの続きでもしようか!」

 花形「あ、はい」

 変態「あれ、カンナちゃんじゃーん。なんだそこにいたのー? 暗くて分かんなかった」


  クソリプオジサンが何と舞台に上がってきた。

  近くにいたヒロインと部長はのちに、「酒臭かった」と語っている。


 部長「だ、誰かな君は」

 変態「カンナちゃーん来たよー、DM送ったのに返事くれないのー?」

 変態「あ、え、あ……」

 部長「君はこのパーティーには呼んでないんだ。帰ってくれるかな」

 変態「もう! 何で返事くれないのー? カンナちゃんのために曲も作ったから脱ぎます」

 花形・部長「「え?」」

 変態「音響いけるー?」

 音響「いけます」


 百合「行っちゃダメでしょ!」

 先輩「悪夢だ……」


 変態「ミュージックスタート!」


  流れ出すのは最初で百合が踊っていた曲だ。軽快なリズムにクソリプオジサンはノリだした!


 変態「言いたいことがあるんだよ。やっぱりカンナはかわいいよ。好き好き大好き やっぱ好き。やっと見つけたお姫様。俺が生まれてきた理由。それはお前に出会うため。俺と一緒に人生歩もう。世界で一番愛してる。ア・イ・シ・テ・ルーーー‼︎」


 百合「気持ち悪ぃ! わたし専用の口上をパクられたし!」

 後輩「先輩のなんですか? 意外とノれますね」

 嫌味「色々ツッコミたいことはあるが、お前専用の口上を完璧に言えてるってことは、あいつはどんだけ僕たちを見てるんだよ」

 後輩「気持ちわるいー!」

 百合「よし、こうなったらこっちも対抗するわよ。わたしたちの方がカンナちゃんを愛してることを伝えるのよ」

 後輩「分かりました」

 嫌味「馬鹿なことするなよ──」

 百合「音響さんいけるー?」

 音響「いけまーす」

 嫌味「行くな!」

 百合「ミュージックスタート」

 嫌味「あ、もう!」

 百合「言いたいことがあるんだよ♡ やっぱりカンナはかわいいよ。好き好き大好き やっぱ好き♡ やっと見つけたお姫様。私が生まれてきた理由。それはあなたに出会うため♡ 私と一緒に人生歩もう。世界で一番愛してる。ア・イ・シ・テ・ルーーー‼︎」

 後輩「いぇーい!」


  クソリプオジサンに対抗して、倒れたパネル部分で、客席から見えない程度に百合と後輩は口上を言い放った。


 破壊「ちょっとアタシ行ってくるわ」

 嫌味「もうこいつら止めに行ってく──って、え、お前どこ行く」

 破壊「あ? あー、オーク退治」

 嫌味「はぁ?」


 変態「ふぃー暑い暑い。え、なんかその制服姿エロくない? 大学生なのに制服なの? え、コスプレ? ちょっと顎クイしていい?」

 部長「おい、これ以上は──」


 破壊「見つけたぞ、オマエラ!」

 花形「あ、は、ハートの女王⁉︎」

 部長「……なんてことだぁ。ハートの女王がここまで来るなんて、隠れてお茶会をしていたこの場所がもう使えないぞぉー」

 変態「あれ、君、新入生だよね。新入生紹介でみたよ、ツッタカターはやってないの? よかったらフォローしてよ。てか、ちょっとボロい感じでその服エロいね」

 破壊「うるせぇ」


  破壊神は容赦なくクソリプオジサンを平手打ちした。


 嫌味「あいつ客殴りやがった……!」

 百合「ナイスビンタ」

 厨二「正義の鉄槌!」


 部長「逃げるんだ……!」


  部長はヒロインの手を引き、逃げるように舞台裏へとハケていく。


 破壊「このように、アタシに逆らうものは即刻死刑である。逃がさないよ、有栖川ありすがわカンナー!」


  トランプ兵であるモブが、クソリプオジサンを引きずって横にハケさせた。


 嫌味「一度もフルネーム名乗ってないのに女王が名前分かんのおかしいだろ」

 百合「クソリプオジサンがカンナちゃんって言ったからでしょ。むしろいいフォローよ」

 後輩「これは、これこそわたしが行かなきゃ。わたしが行きますっ!」


  舞台上へと向かう後輩ちゃんとすれ違ってヒロインと部長がハケ裏へと戻ってきた。


 花形「あれ、リラちゃんどこ行くの?」

 嫌味「あいつも勝手に出て行きやがった……!」

 部長「戻るか!」


  ヒロインと部長は再び舞台上へ。


 後輩「ニャー! チェシャ猫だにゃー。……あ、ニャー、チェシャ猫だにゃー」

 部長「……はっ、チェシャ猫か。相変わらず憎たらしい笑顔だね」

 後輩「ニャー、どうすればいいか分からないんだろー? 有栖、君が真に行くべきはこんなとこじゃないにゃ」

 花形「真に行くべき……?」

 後輩「そう、ハートの女王のお城ニャ!」



 百合「ん? もうお城行くっけ……?」

 嫌味「いや……まさか、あいつセリフミスってんじゃないだろうね」

 破壊「もしかしてあれじゃねぇか。さっきのアドリブで出る回数が一回増えてるから、その分セリフが丸々ズレたんじゃね? それにあんだけ慌ててたし」

 義妹「兄さん、もし飛んでたら何ページになるの?」

 先輩「大体66ページだ。残りは城でのシーンと現実に戻ってからのシーンだけになる。シーンが7つくらい飛ぶことになるな」

 厨二「吾輩の出番が皆無……!」



 後輩「さっさと行くにゃー」

 部長「で、では、私はここまでのようだ。君とは色々あったが、しっかりと自分と向き合ってくれたまえ。健闘を祈ろう!」

 花形「……はい」


  三人は別れるように去り、代わりにキグルミと不思議の国の草木に扮したモブがやってくる。

  物語は止まらない。それも事態は一気に進んでいく。

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