act.7


 後輩「全然照明がつかないですよっ!」

 百合「暗くて何も見えにゃーい!」

 後輩「にゃっ⁉︎」

 厨二「わ、吾輩は闇にく、屈したり、たりは……」

 先輩「落ち着け。みんな不用意に動くな」

 部長「動いちゃダメだぞ!」

 先輩「あと、喋るな」

 嫌味「もうこれダメなんじゃないの?」


 主役「いてて……」


  主役が倒れたパネルから這い出てくる。

  ヒロインがこっそりそばに寄る、様子を伺う。


 花形「あ、真中君大丈夫?」

 主役「お腹痛い……」

 花形「ん? は⁉︎」

 主役「も、もう無理……」

 花形「ちょ、はぁぁあ⁉︎ まだ、てかこれからずっと出番あるんだけど⁉︎」


  主役はまたもトイレへと逃げて行った!



 部長「ん? どうした、何かあったのか?」


  暗くて主役が出て行ったのをヒロインしか認識していない。倒れたパネル越しに先輩と小声で話す。


 花形「……消えました」

 先輩「は?」

 花形「トイレへと消えました」

 先輩「は?」

 花形「トイレに行って、いないです! また、お腹が痛くなったから!」

 先輩「は⁉︎」


  ヒロインだけでなく、さすがの先輩も声を抑えきれなかった。



   ◇ ◇ ◇


  一方その頃、会場前でも問題が起きており、多くのスタッフがこちらに気を取られていた。


 変態「はぃぃ⁉︎ 何でですかぁ! おかしくない、え、おかしくない⁉︎」

 制作「もう開演して1時間経っておりますので……」

 変態「いいじゃーん別に。僕のこと知らんのかぁ?」

 制作「知らないですし困ります……! ちょっ……酒臭っ!」

 変態「いいじゃんいいじゃん。それにしてもお主、かわええ顔しとるなぁ。ツッタカターやってる?」

 制作「やってないです」

 変態「インヌタか、インヌタでしょ、今はインヌタかー。オジサンも最近インヌタ始めたんだよぉ」

 制作「知らないです」

 変態「なあなあ途中入場オッケーやろ?」

 制作「もうダメです!」



   ◇ ◇ ◇



 厨二「ひ、光を……光を吾輩の手に……!」

 花形「うぅ、もうダメだ……。照明は……?」


  真っ暗闇の中、一度全員が舞台裏へとハケた。音響だけは流れるので、現在のお客様はさながら眠りへと誘うオルゴールを聴いているだけになっている。

  モブは首を横に振りながら、倒れたパネルの部分をインパクトでガリガリにパネルを立て直す。

  お客様が気にするとは四の五の言ってられない。


 嫌味「これは今後も使うんだから、小道具班直せないわけ?」

 後輩「難しいですっ……!」

 百合「どれのこと? 暗くてよく分からにゃ〜い」

 後輩「にゃっ⁉︎」

 着包(僕なら出来るけど、何ゆえキグルミだからね。脱げば作業出来るが、何故かさっきから脱ぐことができないんだ)

 破壊「創造はアタシの範囲外」

 嫌味「何で小道具班こんなにいるのに、誰も直せないんだよ」

 破壊「お前も小道具班だろ」

 嫌味「僕はこれらの小道具担当じゃなかったからね。あと、僕先輩ね……?」


 部長「どうしたどうした。照明が点かないからってみんな暗いぞ。さぁ、引き続き公演頑張っていこう!」

 先輩「できるわけないだろ。公演は中止だ」

 部長「何故だ?」

 先輩「そんなの分かるだろ。照明は付かない、衣装や小道具も壊れて、何より主役がいないんじゃ、もう続けられないだろ。今も暗闇の中、お客さんを待たせてる」

 部長「お客さんが待っているからこそ、俺たちは公演を続けなきゃならないんじゃないか。一度幕を上げた以上、こちらの勝手で下ろすわけにはいかない。お客さんは最後まで見にきたんだ、だから何があっても続ける」

 先輩「照明はどうするんだ。光がなきゃ役者は見えないぞ」

 部長「光ならあるさ! ほら、周りを見てごらん。無数の光が散らばっている」

 厨二「……っ! 導きの星空!」

 部長「そう、ここは星空の中だ。星が俺たちを照らしてくれる。そう、ハケ裏エレクトリカルパレードだ」

 先輩「ただの蓄光だ」

 後輩「でも、ボンヤリとなら見えますよ!」

 嫌味「ほとんど意味ないだろ」


  不穏な空気が会場を支配し始める。

  部長、舞台裏に貼ってあるケミカルとペンライトを手にする。


 部長「たとえ照明が付かなくても、そうだこのケミカルとペンライトで代用しよう。自分たちで照明を作るんだ。次のシーンは真中を除けば俺が演じる帽子屋の登場シーンだ。何とかなるさ! 大丈夫! 月部後輩いけるか?」

 花形「…………」

 部長「いける! いけると思えばいけるんだ。悩んでる暇があったら舞台に立とうではないか」

 先輩「お前だけがどれだけ頑張っても、無理なもんは無理なんだよ。諦めろよ」

 部長「だったら結城同輩。お前が俺を止めるんだ。俺を諦めさせてくれ。お前が中止と一言言うだけでこれ以上物語が進むことはないぞ」

 先輩「…………」

 部長「……何も言わないなら、俺たちはまだ進める。俺は自分と、自分の仲間を信じるぞ。そうだろ結城同輩」

 先輩「……勝手にしろ」


  先輩は上手横の舞台裏へと移動し、妹もその後を追った。


 部長「さぁ、舞台に立とうではないか」


  部長は再び舞台上へと、ヒロインを連れて行こうとする


 百合「カンナちゃん、そんなに無理しなくても」

 嫌味「醜態晒すだけだね」

 花形「……でもこのまま中止にしたって、恥かくだけだと思うので、だったら何かをやってからでもいいかなって。やれることだけやってみます」

 百合「カンナちゃん……」

 部長「うむ」

 後輩「あの! えっと、わたしも出ていいでしょうか!」

 嫌味「新入生が無理に決まってんだろ。出しゃばるな」

 後輩「はい、出しゃばってます。でも、わたしはまだ諦めたくないです! わたしも何か皆さんの役に立ちたいんです。先輩方に助けられてきたこの3か月、何か恩返しがしたいです。それに、わたしの役なら王子様の代わりに案内が出来るかなって」

 百合「どういうこと?」

 部長「そうか、なるほど、次の場面は暗い森を通り抜けてのお茶会という設定だったはず。少々見えないが、この暗転も誤魔化せるはずだ。白木後輩、ストーリーテラーを頼むぞ」

 後輩「頑張ります」

 破壊「おー、なんか青春だなー。頑張ってこいよー」

 百合「頑張って」

 嫌味「ちっ、どうせ失敗するに決まってる。さっさと先輩も中止にすればいいってのに」

 部長「大丈夫だ! 確かにみんな、この公演に不安や不満を感じているかもしれない。そりゃそうだ。新入生にとってはこれが初めての本番、俺たちだって今だに本番は緊張する。失敗もする。だから、そんな時はある言葉を心に入れておいてほしい──」


  部長は溜めて溜めて溜めて──それから名言の如く言い放った。


 部長「初ステはゲネ」

 嫌味「全部台無しだよ」

 部長「練習は本番のように、本番は練習のようにってことだ。さぁ、頑張ろう!」

 破壊「ゲネって?」

 百合「リハーサルのことよ」


 花形「もうここまで来たら覚悟を決めないと……。先輩、大丈夫かな」

 部長「大丈夫だ。これ以上のトラブルは起こらないはずだ。起こるはずがない! もし何かあったとしても俺が何とかしてみせるさ!」


  部長をはじめ、ヒロイン、後輩が舞台上に向かう。


 嫌味「何これ、ほんとに続けるわけ?」

 百合「そうでしょ。リラちゃんのあの言葉に響かなかったわけ?」

 嫌味「あんな薄っぺらい言葉にか?」

 百合「ほんと、呆れた」

 破壊「なぁなぁ、何か昔あったのか?」

 百合「なんかって?」

 破壊「いやー、なんか部長とか結城が、含み持たせてたじゃんか」

 百合「あ、そっか。もうあれ一年前だもんね」

 破壊「去年知らないや」

 百合「ちょうど一年前くらいかな、部長と結城先輩が外部公演に出てたの」

 破壊「外部って?」

 厨二「組織から輩出された特命部た、うぅ……」

 百合「あぁ、もう、暗いところダメなんだから無理しないでかわいいなぁ、もう♡」

 厨二「どさくさに紛れてイチャつくな。外部ってのは、部活以外の演劇団体のこと」

 破壊「ふーん」

 百合「その公演の楽ステで、トラブルがあったの。何があったかは知らないけど、とにかく急遽公演中止にしたわけ。そしたらお客さんの一人が怒り出して──」



   ◇ ◇ ◇



 お客「──こっちはさー、お金払って来てるわけ。しかも金だけじゃなくて時間もわざわざ取ってここに来てるってこと分かってる⁉︎」

 先輩「申し訳ございませんでした」

 お客「謝れば許されると思ってるでしょ。これだから学生は。大人のこと舐めてるでしょ⁉︎」

 先輩「……申し訳ございませんでした」

 部長「大変申し訳ございませんでした」

 お客「なに、あんたここの主宰?」

 部長「はい、この劇団の主宰です」

 お客「何があってもさ、舞台は続けなきゃいけないってことぐらい、分かってるよね?」

 部長「はい、もちろん肝に銘じています」

 お客「なんで中止になったの?」

 部長「はい……それは……」

 お客「もういいもういい。ここまで交通費とかもかかってるんだから、その分出してくれるわよね?」


   ◇ ◇ ◇


 破壊神「──はぇー、そんなことあったんだ」

 百合「まぁ、文句言ってたのはそのオバさんだけみたいなんだけどね」

 嫌味「おい、続きが始まるぞ」

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