act.5


 変態「えぇ⁉︎ もう始まっちゃぅ⁉︎」


  時刻はとっくに4桁の数字で表されている。

  毛玉まみれの布団から這い出たのは、パンツ一丁のオジサン。大容量の腹に、過疎化した頭。その上、清潔感がまるでない。部屋にはゴミも散らかっている。


 変態「ああ、いたい、いちち、頭いたいよ〜。昨日は飲み過ぎちゃった……? 覚えてないやぁ、つか、急がないと、終わっちゃうよぉ……」


 オジさんはパンツ(⁉︎)からスマホを取り出し、ツッタカターを見る


 変態「ぬー、ふぅ、あー、もう酔い覚めた覚めた。よーし酒呑も。あーだめだ腹痛いからやめとこ。ふ〜、ほんじゃまぁ、行ってやりますか。あ、開演ツイートしてる。『おはよう☀ 今起きちゃった♪♪ 遅くなっちゃったけど近くだから今から行くしん(^^)。みんなと会えるの楽しみだな〜⭐︎ 待っててね♡』っと……さて、うへ、行きますか。はっはっはっー」



   ◇ ◇ ◇



 義妹「質問。兄さん、今何ページなの?」

 先輩「今は14ページくらいだな」

 義妹「あれは終わるまでずっとそのまま?」

 先輩「んー……」


 破壊「いやー、すまん」

 嫌味「すまん⁉︎ すまんで済むわけないだろ!」

 破壊「うん」

 嫌味「どうするんだ、こんな顔出しパネルみたいな穴を開けやがって」

 破壊「うんうんうんうん」

 嫌味「さすがのお客さんも気付くよ、どう始末をつけるつもりなのかな」

 破壊「うんうんうんうんうんうんうんうんうん」

 嫌味「聞いてないよね」

 破壊「んー?」

 嫌味「んー?」

 破壊「うん」

 嫌味「聞けよ」

 破壊「大丈夫だって。こんなの何事もなかったように振る舞えばいいんだから、そう落ち込むなよ、な、気にすんな。ミスってもカバーし合おうぜ」

 嫌味「やったのは君だよねぇ⁉︎」


 部長「うーむ、立派な穴だなー。直せるか?」


  穴あきパネルが誕生した場所に部長とモブがやって来て、顔が出ないよう点検する。

  モブは部長の質問に対して首を横にふる。


 部長「なるほど。舞台に木材が落ちたが、次のアンサンブルで回収は出来る。しかし、付ける手段がないから、どこかのタイミングでスタッフに道具を持ってきてもらう。そういうことか!」

 百合「何で今ので分かるのよ」

 着包(僕がここで立って穴を塞ぐよ。ほら、舞台と僕の衣装の色は)

 百合「は? なんか言った? うるさいから二度と口開くな」


  キグルミショック!

  ……すると、舞台裏へと帰ってきた後輩ちゃんが、空いた穴から舞台上に顔を出した。


 後輩「そうそう、扉のおじさんはねぼすけだから、開かないよー。進みたいならあーっちにキミの求める道があるけれども、キミの望む場所かは分からないニャー。では、ばいにゃ」


  そして、顔を引っ込めた。


 後輩「……どうですか」

 百合「なるほど、穴から覗くことでお客さんからは生首だけが浮いてるように見える。原作のチェシャ猫の再現ね!」

 厨二「輪廻転生されし空間の裂け目……!」

 部長「やるな! 白木後輩!」

 後輩「ほ、本当ですか……! わたし、穴が開いたのにたまたま気付いたので勝手にやってみたんですけど、わたしのアドリブが上手くいきました⁉︎」

 部長「ああ!」

 後輩「やったー!」

 先輩「静かにはしような。ここハケ裏だから」

 嫌味「見えてる見えてる」


  イヤミに注意され、後輩ちゃんは穴から離れた。


 破壊「ほほーん、なるほどね。ミスってもそれをカバーしあう。そうだよアタシはこれを狙ってたんだよ」

 嫌味「嘘つけ」

 破壊「……よし、アタシも使わせてもらおっかな」


 部長「結城同輩。今何ページだ」

 先輩「15ページ」

 部長「じゃあ次は裁判所からのアンサンブルの時間だな。頑張ってきたまえ!」

 嫌味「でも、アンサンブルが始まる頃にはもう王子が出る場面だろ? さすがにいなきゃダメなんじゃないの?」

 部長「なるほど。確かにそうだな、じゃあアドリブで伸ばしてくれ!」

 嫌味「はぁ⁉︎ いや、無理でしょここにアドリブとか」

 部長「大丈夫大丈夫」

 嫌味「いや無理だって」

 部長「諦めたらそこで公演終了だ。安東先生もそう言ってたぞ」

 嫌味「誰だよ」

 部長「俺はここでドシンと構えて待ってるから!」

 嫌味「まぁ、僕はどうせ部長と違ってちょい役だから、アドリブとかで喋ることはできないから別にいいけどさ。アドリブできるのは月部とお前だけだからな」

 破壊「え、アタシ? あぁ、まぁなんとかなんじゃね? 適当に喋ればいいんだろ?」

 嫌味「期待はしてないよ」


  先輩はグループチャットで制作に連絡を入れる。


 義妹「兄さん」

 先輩「どうした?」

 義妹「不安。失敗したらどうしよう……」

 先輩「大丈夫だ。何かあってもあいつらが助けてくれるから楽しくやってこい」

 義妹「兄さんは助けてくれないの?」

 先輩「なんだかんだで俺が信用してる奴らだ。何とかしてくれる。現にあいつらが完全に諦めムードだったら舞台は既に中止だからな。もうアウトだが……ただ上がってしまった幕は下ろしてはいけないからな。……まぁ、こっちのことは気にせずに、自分のできることをやってこい」

 義妹「……うん」


  破壊神、イヤミ、妹、百合、モブは舞台上へと上がっていく。厨二は再び台本を熟読し始めた。


 後輩「もうすぐアンサンブルってことは今何ページですか?」

 先輩「16ページだな。今は」

 後輩「真中先輩、間に合いますかね……」

 先輩「アドリブで伸ばすんだろ。それに今制作のやつに、あいつを強制的に直接呼ぶように頼んだから、後数分で来るはずだ」

 後輩「それまでの辛抱ですね……」

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