act.3
花形「先輩、何だかお腹が空きましたね」
先輩「だな。じゃあ、そこの店で何か適当に買うか」
舞台上では、制服を着た二人が遊園地のアトラクションの合間に何を食べるか相談……の設定が繰り広げられている。
至って平和なシーンだけど、みんなの心中は気が気でなかった。理由は色々あるけれども。
百合「愛ちゃん大丈夫かなー。帰ってきたらよしよししよ」
後輩「先輩、離してくださいっ……!」
百合からのバックハグヨシヨシ。
後輩ちゃんは逃げられない……!
先輩「すみません、注文いいですか」
義妹「いらっしゃいませっっ‼︎ ご注文はぁ! 何されますかぁ‼︎‼︎」
頭にハチマキを巻いた先輩の妹が登場してくる……! しかし、そんな衣装は予定にはない……!
百合「声出てるじゃーん。かわいい〜」
後輩「えへへ、くすぐったいです〜」
嫌味「あ、あれ?」
破壊「よっしゃ、1000円な」
嫌味「いつそんな賭けしたかなぁ⁉︎」
先輩「……そうだな。チュロス二つ」
義妹「はぁい! 焼きそば四つー! どぞー!」
嫌味「焼きそばぁ⁉︎ あいつパニくって適当なこと言ってるけど⁉︎」
先輩の妹が差し出したのは、プラスチックの容器に入った焼きそばが四つ。少し冷めている。
先輩「あ、どうも……。えー、1000円くらいか──」
義妹「おっと、代金はいらねーやい。兄さんカッコ良いからタダにしてあげやいやいやいやい……」
花形「良かったですね! 先輩!」
義妹「お前のためじゃねーやい‼︎ ブチ殺すぞ!」
花形「ご、ごめんなさい……」
嫌味「……うちの女子どもは何であんなに口悪いんだ」
後輩「す、すみません」
嫌味「いや別に君のことじゃなくて、」
破壊「なにうちの同期謝らせてるんだ、殺すぞ」
厨二「なにか戯言が舞っているようだ、殺すか」
百合「なに私の天使に謝らせてんの? 殺すよ」
嫌味「こいつらのことだから」
先輩「あ、ああ。……ありがとう。たくさん食べさせてもらうよ」
義妹「まいどありー!」
先輩の妹は駆け足でハケ裏へと戻ってきた。
先輩「そこで食べるか」
花形「あ、はい」
二人は中央に座って食べ始める。今後のヒロインが決断する時に必要な伏線が会話の中に散りばめられているが、今回は関係ないので省略する。
嫌味「やってくれたな」
義妹「通常。いつも通りやっただけ」
百合「ううん。いつも通りじゃないよ。だって声があんなに出てたんだもーん、よしよし」
妹は華麗によしよしをかわした。
嫌味「声の方はどうでもいいの。何でチュロスじゃなくて焼きそばってほざいたのかを聞きたいね。焼きそばなんて小道具になかっただろ」
義妹「存在。そこにあったのを出しただけ」
嫌味「んー⁇ そこにって、じゃあ公演前から舞台上に焼きそばが落ちてたってことじゃないのぉ? 変な嘘付くんじゃないよ」
破壊「あぁ、焼きそば。あれアタシのだ」
嫌味「君のかよ⁉︎ 何で舞台上に落ちてんの⁉︎」
破壊「そりゃここ探してもねぇわなー」
嫌味「僕の質問に答えろよ」
厨二「ふっ……吾輩が
後輩「つまり、プリセットを間違えたわけですね!」
嫌味「関係ないものは会場の外に捨てときなよ!」
百合「うるさいな、もういいじゃない。うまくいってるんだし」
嫌味「うまくはいってないだろ」
破壊「焼きそばは美味いぞ」
厨二「
嫌味「そもそも君たちが──」
百合「さーて、こんなイヤミな奴は放っておいて、愛ちゃんは私と一緒に着替えよーね」
破壊「腹減ったー」
破壊神と厨二病は座り込み台本の再確認。
百合は、嫌がられてはいるものの妹を後ろから押して端の方へと誘導した。
ストレスが溜まる一方の嫌味は歯を食いしばるほどに表情を歪ませていた。
先輩「──悪い、ちょっと電話だ。あいつ、どうでもいいことでもすぐに連絡してくるからさ。ちょっと待ってて」
花形「あ、はい」
着包「…………」
花形「ウサギさん?」
先輩と入れ替わりにヒロインの前に現れたウサギのキグルミは四つの焼きそばを奪い去った……!
花形「焼きそば! 待って……!」
ヒロインはキグルミを追いかけていく。
破壊「ほら、焼きそばうめぇから盗られんだろ?」
嫌味「焼きそば追いかけるヒロインやだろ」
百合「んー? 衣装どこだろー」
義妹「先輩。その辺り」
百合「えーこれかなー?」
絶対着ないであろうネグリジェが。
義妹「相違。違います」
百合「似合うよ」
義妹「拒否」
後輩「ん? そ、そそそそそそういえば……! もうすぐ真中先輩の出番があるんじゃないですか⁉︎ ねぇ部長⁉︎ 部長? 起きてください!」
部長「カハッ⁉︎ 寝てた! 何だと⁉︎」
後輩「真中先輩の出番が」
部長「あーそうかそうか、ここで王子様がちょっとだけ出番があるのか。うーむ帰ってくる気配は今のところなし。むむ、ならば『まだ帰って来てないから音響で何とか伸ばしてくれ』これで大丈夫だ!」
部長が音響にグループチャットにて連絡する。
それに気付いた音響が本来の曲を急遽スローモーションに流し始めると……なんかエロチックな雰囲気となった。
百合「もう冗談だってー。じゃあ衣装もここにあったし、着替えよっか……」
嫌味「曲こんな感じだっけな……」
部長「むむ、おい
嫌味「なんですか」
部長「女子が着替えてるぞ」
嫌味「それがどうしたんすか」
部長「いつにも増して妖艶じゃないか」
嫌味「は? あんた何言ってんだ、わーお本当だ」
部長とイヤミ、ついでにずっと黙っていたモブも息を呑む。
ただ、百合と妹は着替えといっても上着を着脱しただだけであり、何らイヤらしい要素はない。しかし、落ち着いた音響と薄暗い空間がそう錯覚させていた……!
その間ヒロインはアンダーランドへと落ちてるシーンに突入していた。
嫌味「部長」
部長「なんだ」
嫌味「演劇って最高っすね」
部長「俺も強く思うぞ」
嫌味「僕、演劇部入ったら彼女できると思ったんすよ。ほら、女の子と触れ合うこともあったりするし?」
部長「彼女できたか?」
嫌味「いや、演劇やってる女子って大抵ヤバイ奴しかいねぇなって。入ってから気付きました」
部長「そうか!」
百合「何見てんの? 男が見んな、あっち行ってろ」
後輩「じょ、女子の着替え見ないでくださーい!」
嫌味「べ、べべべ別に下着が見えたわけじゃあるまいし、何をそんな自意識過剰になってるんだ。女というのはどうしてこういつも大袈裟なんだ……!」
部長「そうだな大好後輩。別に下着が見える見えないが大切なんじゃない。着替えという行為自体が最高だもんな!」
百合「はぁ⁉︎ これだから男ってのは、このクズ!」
部長もイヤミも男メンツは百合たちと反対側に追いやられる。
部長「なんだ、本当のことだろう」
嫌味「馬鹿、この馬鹿真面目。正直に言わなくていいんですよ」
部長「正直は大事だぞ」
そこにキグルミが男子側から、ヒロインは女子が密集してる側から、別のハケ口から舞台上へ出るために舞台裏へとやって来る。
花形「あ、ちょ、すみません。人が多い! なんでこんな角に密集してるんですか」
百合「カンナちゃーん聞いて〜、男がね〜着替え見てくるの〜」
花形「はぁ……まぁ、それは最低ですけど」
中央まで掻い潜って来たキグルミだが、いつの間にか顔部分が逆を向いてる。
後輩「先輩! 首がグリンってなってます!」
着包「え、ほんと?直して直して」
破壊「ほい」
破壊神が首の向きを直してから上から叩く。
何かが壊れる音がした……。
着包「ありがとう。全然首が動かなくなったよ」
破壊「ったく、セリフ確認してんだから邪魔すんなよー」
百合「ほんと男とこんな狭い空間にいるのが苦痛よ!」
嫌味「こっちだって嫌だよ」
部長「え、興奮するって言ってなかったか?」
嫌味「言ってねぇよ」
百合「マジ最低。ねぇ愛ちゃん」
義妹「変態」
百合「ほら!」
嫌味「今は君がベタベタ触ってるせいだろ」
花形「あの! わたし舞台上に行きたいんで。それと今ケンカしてる場合なんかじゃ──」
百合「男が悪い」
嫌味「女だろ」
花形「どっちも! しかも争ってるのは二人だけじゃん。今は公演に集ちゅ、いった!」
ヒロイン、実は舞台裏中央にある謎の段差につまずいた。
花形「この無駄な段差はなに⁉︎」
部長「舞美の余りだ」
百合「あんたが設置したやつじゃないの⁉︎」
嫌味「ちげぇよ、このウサギだよ」
キグルミ、なすりつけられビックリ。
花形「うぅぅぅ」
後輩「ケンカはダメですよー!」
部長「意見をぶつける喧嘩はいいものだぞ」
先輩「うるさい」
邪魔にならないようにハケ横にいた先輩が、許容できない騒ぎに痺れを切らせて現れた。
百合・嫌味「だってこいつが……」
先輩「いいからこれ以上ハケ裏で喋るな。月部、早く行け」
花形「あ、ありがとうございます。すみません」
先輩「とにかく何があって喧嘩したのかは知らんが後にしろ。お前も止めろよ」
部長「ごめん!」
先輩「もうすぐここもかなり暗くなるからあんま動くなよ。つーかハケ裏で無駄に動くな喋るな」
後輩「わたしの出番だ! 行ってきます!」
先輩「言ったそばから走るなよ」
怒られたみんなはさすがに口を閉じたが、イヤミはしれっと毒を吐いた。
厨二病は特に言いつけを守り……いや、体を縮こませて少しだけ震えている。
舞台上ではなんやかんや色々あって、ヒロインが中央で倒れている。表のストーリーは不具合が起きながらも本番となるアンダーランドのシーンに突入し始めていた。
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