act.2
百合「きゃわわ〜みんなぁ、わたしのライブに来てくれてありがと〜。んー、んー、二階席聞こえる〜。んー、わたしは聞こえないよ〜」
アイドルらしい可愛くプリティーな曲が流れている。
舞台上にいるのは白やピンクを基調とした、まるで天使のようなフワッフワの百合の姿が。照明の関係で見え辛いけれども、バックダンサーとして二人の男性の姿もある。
花形「……先輩」
先輩「なんだ」
花形「今、何ページですか」
先輩「6ページだな」
花形「今、開演してから何分ですか」
先輩「40分くらいかな」
花形「このシーンを」
先輩「20分」
花形「……なるほど。もう20分もこれを繰り返し……。もうダメだ……」
部長「諦めたらダメだ‼︎」
花形「うわ、ビックリした!」
先輩「だからハケ裏では静かにしろよ」
部長「諦めたらそこで公演終了だ。安東先生もそう仰っていた」
花形「安西先生じゃなく」
先輩「安東先生はうちの顧問だ。会ったことはないけど」
部長「俺もない!」
先輩「お前もないのかよ」
部長「ああ。会ったことあるのは真中だけじゃないか? よくトイレで隣になると言っていたぞ。『マーキングしてるとこ一緒なんすよ、へへー』って」
先輩「あいつ爽やかに見せかけてキモいな」
部長「とにかくうちの主役がウンコから帰って来るのを首を長くして待とうじゃないか。ほら、主役は遅れてやってくる、だろ?」
先輩「あいつのウンコでこっちは困ってんだよ。ウンコのせいで公演潰れたらどうするんだ」
部長「大丈夫だ、ウンコで公演は潰させない。そんなことになったらウン公演だなんてクソほど馬鹿にされてしまうからな。結城同輩だってウンコにはさせたくないだろ」
先輩「当たり前だ。もうウンコにはさせない」
部長「うん、このメンバーなら大丈夫だ!」
花形「ウンコうるさいです」
先輩「だが、このまま主役の出番前に帰って来なかったら公演中止にするからな」
部長「大丈夫だ。アサルト後輩に出来るだけアドリブで繋ぐように頼んでるからな」
百合「……んーと、じゃぁ〜、そろそろぉ〜限界なので〜最後〜行っちゃおっかな〜。音響さん大丈夫?」
音響「オッケーです」
ヒロイン「もう無理みたいですけど……」
部長「よく持ち堪えた!」
百合「じゃあいっくよー!」
なんと激しいダンス曲が流れ出し、アイドル姿からは想像できないほどにキレッキレに踊る百合こと
よく見れば、バックダンサーだったのはモブとイヤミ。モブはキレッキレに、イヤミは疲弊しながらペンライトでオタ芸をしていた。
後輩「先輩っ! もう真中先輩に電話しちゃいましょうっ!」
先輩「あいつスマホ持って行ったのか?」
花形「持っていた気がします。スマホの熱でお腹温めてたのは見たので」
部長「よし! 電話をかけろ‼︎」
後輩「はい、かけますっ!」
激しくうるさいライブの最中、ここぞとばかりに主役に電話をかけると……思いの外、すぐに出てくれた。
主役『はい……』
後輩「先輩、かかりました、かかりましたよっ!」
部長「よし、話すんだ!」
後輩「はいっ! えっと、あ、おつかれさまです」
先輩「代わって。真中、お前いつ戻って来れる?」
主役『い、今すぐに戻りま、あ、あぁ……』
ダンスが終わり、観客の拍手が会場を覆う。
主役『お、おおおお──』
先輩は呆れて即座に電話を切った。
百合「みんなーありがとー」
百合たちは舞台裏へとハケてくる。
先輩「こりゃダメだ」
部長「大丈夫だ。信じよう!」
百合「ちょっと、いつまで続けさせる気だったわけ。つい本気出しちゃったじゃない」
部長「アサルト後輩おつかれ、よく頑張ってくれた!」
百合「どうも」
後輩「先輩、おつかれさまです! すごくカッコよかったです!」
百合「いやぁぁぁん! わたしの天使ー! 今日も可愛いよぉ! どうしてぇそんなに可愛いのぉ。それはわたしに出会う為。疲れたから癒して癒して〜。あれ、もうちょっと近付いていいんだよ、匂い、フレグランス、嗅ぎたいから……!」
後輩「……遠慮しておきますっ!」
花形「先輩、わたしたちの出番ですし、とりあえず行きましょうか」
先輩「そうだな」
義妹「……兄さん」
先輩「ん、どうした」
義妹「挑戦。わたし、兄さんのために頑張るね」
先輩「無理はすんなよ」
花形「愛ちゃん、一緒に頑張ろうね」
義妹「……」
花形「あ、愛ちゃん? みんなで協力してやっていこうよ」
義妹「拒否。どうせ仲良くしても意味ないもの」
先輩の妹である愛は、ヒロインのことをわざとらしく無視して、ハケ口へと向かった。
花形「今日もダメか……」
先輩「まだ話せてないのか。悪いなうちの妹が」
花形「いえ……」
先輩「もう公演中だってのに、困った妹だよ」
花形「私、なんで愛ちゃんに嫌われてるんだろ」
先輩「あいつは人とのコミュニケーションが苦手だからな。別に
花形「だからこそ気にかけちゃうんですけどね……」
先輩「そう、気を落とすな。それより本番に集中しろ。こうなってしまった以上最後までやり切るぞ」
花形「はい」
二人もこれから出演のためハケ口へと向かった。
嫌味「はぁはぁ……はぁーダンス疲れた。ははっ、あいつ声出んのか?」
部長「あいつって
嫌味「そうだよ。あの陰キャだよ。練習中も通しも昨日のゲネだってずーっと声小さいままだったじゃないか」
部長「大丈夫だ。いざとなったら本番で声が出るかもしれんぞ」
嫌味「無理だね。練習で出ない奴が本番で出るわけないって。何喋ってんのか分かんないまま終わるに決まってる」
破壊「は? んな訳ねぇだろ。うちの同期舐めんなよ、シバくぞ」
ずっと台本とにらめっこをしていた破壊神と厨二病。破壊神の方が台本を投げ捨て、オラつきながら迫ってきた。
嫌味「うん、僕先輩ね。先輩にはちゃんと敬語使って」
破壊「そう固くなくていいぞ。たった一年違うだけだから、な、気にすんな」
嫌味「うん、僕の方が先輩ね!」
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