第16話

「なぜ今、それを蒸し返すの?」

 美羽奈はそう尋ねてくる。友理奈を起こさないよう、小声で会話する。

「ずっと考えていたことさ」

 美羽奈はふたたび、すわっているボクにまたがってきた。ベッドに腰掛けながら、その体を受け止める。でも、彼女は上にのっても動かずに、小さくもぞもぞと動くだけだ。

「何でそう思うの?」

 互いに抱き合うようにして、耳元に口を寄せながらなので、この方が秘密の会話をしやすい。

「友理奈は、自らがそうであるとキミには隠していない。でも、キミは自らそれをボクに言うことはない。恥ずかしいのかな? 変にみられることを警戒しているのかな? そう思ったこともあるけれど、キミがヒューメイリアンだとした場合、姉からすすめられてエッチをした? そう考えるのは、少々おかしいと思っていたんだ」

 彼女と最初にしたのは、彼女が小学一年生だったときだ。いくら姉からすすめられても、そう簡単にしようとは思わないだろう。

「私も……ヒューメイリアンよ」

「親は……?」

「母親が、宇宙船に連れていかれてね。お父さんは知らないわ。彼らもそんなミスはしないだろうけれど」

 ということは、経営者派……と自らが名乗っていたけれど、彼女たちが美羽奈にも関わっていたようだ。


「ボクがダヴィと会ったとき、彼女は『ヒューメイリアンと……』とは言っていなかった。男がいない彼女たちの世界で、上手いとか、下手とか、そういうことが比較対象になるのかなって……?」

「ふふ……。そう、私が姉を焚きつけたの。いくら何でも、私が誘っても靡くことはないだろう……と思ってね」

「ボクとエッチをしたかった?」

「そうね。そうだったのかもしれない。でもそれは、エッチをしたかったのではなくて、自分の運命を知りたかったのかもしれない。私はまだ、性の手ほどきをうけてはいなかったけれど、私たちは地球人との関係を試すためにつくられた、ということは知っていた。

 エッチをするため……だけに生まれた? だったら、それがどんなものか、知りたくなるでしょう?」

 小学一年生のころから、そんなことを考えていたのか……。でも、ボクたちは自分たちの存在を、中途半端にされたままだ。アデラやダヴィたちには、何らかの思惑がありそうだけれど、ボクらにはエッチをしろ、子づくりしろ、というばかりで理由を明かさない。

 ボクが『特別』だから子づくりするわけではなく、すべてのヒューメイリアンに求められるのなら、別の異なる理由があるはずだ。

 最近、アデラは接触してこないけれど、彼女とふたたび会う必要を感じていた。


 会いたい、そう念じて眠りにつくと、宇宙船へと運ばれる。向こうの都合で呼ばれることもあるけれど、ボクからも会うことができた。

「何となく、理由は分かっています」

 アデラは部屋に入ってくるなり、そう告げた。

「ボクはカン違いしていました。ボクのことを監視しているアナタたちが、どれぐらいのことができるのか……を」

 ボクが意外な切り口から話をはじめたことで、アデラも警戒したのか、言葉を返してこない。

「ある宇宙人は、アナタたちのことを政治派、という呼び方をしていました。科学者派から、ボクを取り上げて管理下に置いた、と。ボクがα-イブと近似する遺伝子をもち、危険だから……と。でも、ボクを殺すことだってできたはずだ。真に危険だとしたら、むしろそうしたでしょう」

「…………」

「危険でないなら、取り上げる必要がない。むしろ、これはある一つのことしか示唆していない。それは、ボクに利用価値があった。彼らから取り上げ、自分たちで利用しようとした……」


 アデラは軽く微笑んだまま、身動きしない。

「しかし子づくりしろ、としかアナタたちは言ってこなかった。そのことだけを強要してきた。そこで、一つの結果を導いたのですよ。

 α-イブがまぐわったのが、誰か? それは分からないけれど、α-イブが生んだβ-イブ、直系の子孫である地球上にいる人類の中に、β-イブと近い存在も生まれているかもしれない。α-イブと、β-イブの交わり……。アナタたちが見たい結果ではないか、と……」

「ふふふ……。それもα-イブの力なのかしら?」

「さぁね。でも、人類が急にヒトゲノムを調べ始めたことといい、それを調べるよう仕向けるため……と考えれば、説明がつく。ボクのような存在が生まれた。それは実験、研究の結果だったのかもしれない。でも、もし偶然にそんな存在が誕生し、人類の動きと連動していたら……。

 α-イブが交わったのは、自分の生んだ二人の息子だけだったのなら、尚更自分の娘である、β-イブの子と関係したら……」

「我々は、優秀な頭脳をもった。科学と技術をもって、地球を離れました。でも、物足りないことに気づいた。

 Y遺伝子を早めにキルしたのも、それはα-イブ由来でない、と明白だから。そしてX遺伝子を。Y遺伝子の代用とすして男性を組成しても、男性っぽくないことが分かってきたのです。

 そこで、男性をつくりだすことを諦め、精巣だけをつくり、精液による人工授精の道にすすんだ。

 でも、それではダメだったのです」

「頭では……、理論的にはそれで生をつむぐ、生物としての機能を果たせるけれど、それでは物足りない?」

「α-イブの系統だけではうまくいかない。β-イブの系統と、混ぜると上手くいくかもしれない。アナタのように……」




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