第12話
「担当直入に聞きます。あなた方がボクの命を狙っているのですか?」
「ふふ……。あぁ、ごめんなさい。彼女たちは、そんなことも教えていないのかと、ちょっと面白かったもので……。ちがいますよ。多分、私たちのことを説明もしていないのでしょう。
あなたたちの世界の言葉をつかって分かり易くいうと、あなたと関わり合っているのが、政治家派――。
この世界の方針を主に決めているので、そう呼びます。
でも、彼女たちはあなたを生みだしたわけではない。あなたの誕生にかかわったのは、科学者派――。
α-イブこそ至上と考え、その再来を望んで研究をつづけてきました。
私たちは、経営者派――。政治家派と、科学者派とのバランスをとっている立場になります」
「バランス? なら、神代さんがぼくに接触してきたのは……」
「私たちが望んだことではない。ヒューメイリアンを生みだし、地球人との接触を試みることは、どの派も行っていますが、別にあなたと接触して……とこちらから話したことはありません」
なるほど、彼女たちが経営者派と名乗るのは、損得、利害、経済合理性を求める立場に近いのかもしれない。
「先ほど、科学者派がボクをつくった、と言っていましたが……?」
「α-イブの再現……。それは彼女らにとって悲願であり、遺伝子操作という手法を駆使して、ヒューメイリアンを生みだしてきました。でもそれは永いこと、上手くいかなかった。
アナタが誕生したのは偶然。そう聞いています」
それで『特別』か……。
「でも、ボクは男性ですよ。α-イブは女性でしょう?」
「そこにも事情があるのですよ。我々は、α-イブから世代を重ねて、変異も増えている。そこで遺伝子を操作して、近づけようと試みたのですが、すべてうまくいかなかった。
我々が進化に行き詰まっていることは明らかだった。そこで、ヒューメイリアンにその希望を託した。でも、いいところまでいくものの、α-イブにまで達することはなかったのです。
そこで、β-イブ由来である地球人の性決定遺伝子のうち、X遺伝子の活動を、Y遺伝子へと置き換えたところ、α-イブの形質を上手く再現できた……。それがアナタなのですよ」
「じゃあ、ボクはXX型の男性?」
「そうなります。これまでアナタたちの世界ではきちんと調べていないだけで、そういう形も少なからずあります」
これは後で気づくことだけれど、そうなるとボクの子供は、すべて女の子? となる。もっとも、そのX遺伝子が男性として機能しているのだから、男の子もできるのかもしれないけれど……。
しかしβ-イブも、α-イブの娘だ。β-イブの末裔であるボクたち、地球人でもα-イブに近いことはあったのかもしれない。
ただ、少し気になることもあった。
「X遺伝子を、Y遺伝子としてつかう技術……。もしかして?」
「そうです。私たちには、すでに男性がいません」
「男性は全員死んだ……?」
「正確にいうと、Y遺伝子が生物として維持できないレベルまで壊れてしまったのですよ。男性を生みだしたければ、X遺伝子を操作すればいいので、今では男性そのものはいません」
地球上でも体外受精、人工胎盤の技術があるので、今さら両性をそろえずとも生物は種を維持できる。XX型の遺伝子をもつ細胞を誘導して、睾丸をつくり、そこから精液さえ抽出できれば、何の問題もないのだ。ここの高い技術があれば、その程度は造作もないだろう。
「我々は種として、限界を迎えつつあります。だから袂を別った、あなた方との関係に一縷の望みをかけた。色々な可能性も試しつつ……」
「その可能性の一つがヒューメイリアンであり、α-イブだった?」
「理解が早くて助かります。科学者派が許可もなく邁進したのも、結局は限界を迎えた我々が、どう道を切り拓くか? だったのです」
「でも、その可能性であるボクを、殺そうとする者がいるのはナゼ?」
話が最初にもどってきた。
「私たちも、必ずしもすべて理解しているつもりはありません。でも、α-イブの再現……これは超能力を与えるようなものです」
「全知、の神のようなものだと……?」
「そういうことです。あなたが年齢に似合わず、それだけの能力を発揮するように、末恐ろしいと考える者がいても、不思議ではありません」
「超能力……、ぼくはそれほどではありませんよ」
「私も、話として聞いただけですが、α-イブの特徴的なものは、性決定遺伝子の中にあった、とされます。なので、それを強制的に男性とする、あなたにどれほどα-イブの性質が表出するかは分かりません。今はまだ……かもしれないし、将来的にもそうならないかもしれない。でも、そうなったときに私たちばかりでなく、人類をどう扱うか……?」
よく語られること。地球にとって人類が害悪だと思えば、滅ぼすという考えに至ることだってある。ノアの時代の洪水や、ソドムとゴモラの全滅など、神は時おり鉄槌を振り下ろしてきた。
『特別』であるボクが、そう考えたとしても不思議ではない。
そして、そうした懐疑がボクに殺意をむける原因なら、それを安心させるには、行動で示すしかないのか……。
「私たちは、将来の不透明なことにあたふたしても仕方ない、と考える者が多い。それより、今の快楽を求めたい、と……」
その言葉とともに、ダヴィの後ろに列をつくるのが見えた。情報を求めた代償、その支払いのときが来た。ボクは全裸で、両腕を縛られている。彼女たちはボクの股間をまさぐり、恐らく全員が初めての、その行為を愉しもうとしていた。
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