第11話
学校の四階、ベランダに立って外を眺める。ここはそれほど都会ではなく、マンションなども多くて、住宅地という感じだ。だから屋根と、駅の近くには背の高いマンションがにょきにょきと、まるでエノキタケが同じ個所からまとまって生えるようにそびえる様が、異様にみえる。
そのとき、背後から近づいた何者かによって、ボクは両足をつかまれ、そのままベランダの柵を越えて、その外へと放り出された。
ボクは宙を舞いながら、ボクの後ろに立っていた人物に目を向ける。
やっぱり、あなたですか……。
その顔をはっきりみた。暗殺者の顔だ。無表情で、ボクを殺すことに何の感情も、躊躇いもない。ただ、暗殺者も気づいたはずだ。その手すりの部分に紐が結ばれ、それがボクの腰にも縛り付けられていることを……。
支点と、力点により作用点が決まる。てこの原理だ。ベランダから外に放り出されて、その柵に支点があったら、ボクは三階のベランダにそのまま飛びこむことができる。素早くお腹にしばった紐を外して、ボクは走りだす。相手も、ボクが三階に飛びこんだことは気づいたはずだ。顔をみられたことも……。
車で轢かれそうになったときも、疑っていた。でも確証がなかった。だから調べてみようと思ったのだ。学校で、隙をみせて……。
ただ、あくまでそれは暗殺者から話を聞きたい……と思ってのこと。逃げられては元も子もない。
でも……。
外から、ドンッ! と大きな音が聞こえた。悪い胸騒ぎがして、ベランダから身をのりだす。すると、そこに形としては少々歪となった、肉塊が赤いペンキをベッドにして、そこで横たわっている。
あぁ、やられた……。そこに落ちていたのは、担任の教師だった。
ボクは監視されていたのだ。担任の教師が、ボクを殺そうとしたことがそれをよく説明する。彼がヒューメイリアンかどうかは分からないけれど、宇宙人と何らかのつながりがあり、その命令が、監視から殺害へと切り替わった……そうした事情が想像された。
そして、自らその命令に失敗した……と気づいたとき、命を絶った。それは命令というより暗示、マインドコントロールといった方がよいのかもしれない。自分がそうすることが絶対……と信じ、できないという事態に陥ったとき、彼もそれで絶望を感じてしまった。
そう考えると、説明がつく。彼を殺す必要なんてなかった。マインドコントロールされている、と気づかないよう、手をつくすことなんて簡単だ。アメリカではMKウルトラ計画、という作戦名で実際に、戦後しばらく実行していたし、日本でも某宗教がヘッドギアをつけていたのは、MKウルトラ計画について研究し、実践していたものと推測されている。
もし、これをアデラとはちがう、何らかの宇宙人勢力が行っていたなら、その程度のマインドコントロールは簡単だろう。
ボクの周り……。特別、と称されるだけに、意外とそういう関係が多いのかもしれない、と感じていた。
「やっぱり……。あなたの担任だと聞いたから、もしかして……と思ったんだけど」
神代はそういった。
「キミは知らなかったの?」
「知るわけないじゃない。そうかもしれない……とは思ったけれど、今聞いてびっくりよ」
彼女は自らをヒューメイリアンと名乗った。勿論、ボクのことも知っていたのだから、何らかのつながりがあるはずだ。
「キミが会った、会っている……という宇宙人と、会えないか?」
「……どういうこと?」
「ボクを殺そうとする宇宙人がいる。だから多くの宇宙人と、話をしてみたいんだ。そこに何か、ヒントがあるかもしれない……」
神代も訝しそうにするけれど、ボクの言いたいことも理解したようだ。
「分かった。話してみてもいいけれど、相手がどういうか? 保証はできないよ。多分、こういうことは初めてだろうし……」
とにかく、コンタクトをとることが重要だ。もし、彼女のバックにいる宇宙人がそれに関与している場合、ボクは袋のネズミとなることも覚悟していた。でも、そのネズミは牙をもち、爪を研いでいることを思い知らせよう、とも考えていた。
でも、それは意外と早く、そして意外な形で訪れた。神代の家をでて、すぐにボクは目の前がくらむような感じに襲われ、気が付くといつもアデラと会う、あの部屋と似たような場所にいたのだ。
ただし、状況は雲泥……というか、似たようなものか。アデラと会うときは、手術台のようなベッドの上で、そこから動くこともできないけれど、ここでは両手が拘束され、壁に縛り付けられる形だった。
そこはここの牢獄なのか、人が一人立てるぐらいしかスペースがなく、しかもいつの間に脱いだのか? ボクは全裸にされていた。
そこに人のようなものが入ってくる。これはアデラの時もそうだったけれど、全身の体毛がなく、色も白く、その中で口だけに金属製にみえる大きなマスクをつけており、人間に見えないのだ。
アデラとはちがうけれど、どことなく似ているようにも感じる。
「初めまして。私はダヴィと申します」
胸がやや膨らみ、下にも突起がないので女性なのだろうけれど、中性的な印象をうける。それは声もビブラートがかかっていて、声質が不明である点もあるのかもしれない。
「私たちと話したい……ということでここにお連れしましたが、少々の不便はご了承願います」
ダヴィはそういって、話をはじめた。
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