第6話
あの日、神代から強引に体をむすばれ、そして告げられた。「ヒューメイリアンとのセックスは、最高……」と。
彼女がナゼそれを知っていたのか? あの後、彼女は自分でつぶやいたことにも気づいていない様子で、夢見心地のまま下着を穿き直すと、別れも告げずに帰っていった。
ボクもその場で尋ねられなかったことで、後になって聞きづらくなった。もし尋ねると、自分がヒューメイリアンだとみとめるようなもので、即座に否定しなかったことが悔やまれる。
でも、その答えはアデラが教えてくれた。
神代と関係をもってから数日が過ぎたころ、眠っていたとき、宇宙船に連れていかれた。
どういう手段をつかい、姉が横で寝ているボクを、こっそりと連れだしているのか分からないけれど、ボクが目を覚ますこともなく、気づいたら宇宙船の中にいることがしばしばだった。
「この前、学校でボクの正体を知っている少女がいたのですが……」
ボクがそう切り出すと、アデラはそれを予期していたのか、小さくため息をついてから語りだす。
「彼女も、ヒューメイリアンです」
薄々、そうではないか……と思っていた。でも、こんな身近にヒューメイリアンがいたことの方が、驚きでもあった。
「ただ、私たちが管理するヒューメイリアンとは違います」
「どういうことですか? ちがう宇宙人?」
「我々は一つです。ただ、立場がちがう、という意味です。地球上で例えるなら、国会に与党と、野党がいるでしょう? 同じ国民だけれど、考え方や立場が異なり、相手がどう行動するのか? 私たちにも分かりません」
彼女は国会、議会として例えたけれど、与党、野党という大きな枠組みより、もっと細分化されていることを、後に知ることになる。
ただこのとき理解したのは、彼女たちの中にも立場が異なる人たちがいて、コントロールはされていない、ということだ。
「じゃあ、彼女がボクに接触してきたのは……?」
「私たちにとってはイレギュラー。どうして彼女がそうしたのか? 私たちにも分かりません」
「ボクの周りに、そういう人は多いの?」
「先ほども言いましたが、私たちも誰がヒューメイリアンか? その全体像をつかんでいるわけではないのです。もしかしたら、多いのかもしれない。私たちが管理するのは、あなたの暮らす町に限定すると、数名です」
意外と多い……。ボクは特別……という言い方をしていたけれど、きっとそれは少なくない人数、色々と試していて、偶々ボクがそうだった、ということなのかもしれない。
「気になったのは、あなたたちが与党?」
「多数派です。私はあなたたちの世界でいう公的機関に勤めていますから……」
ニュアンスが合っている、というだけで、彼女たちの世界では公的機関……なるものは存在しないらしい。でも多数派と聞いて、少し安心した。
「じゃあ、これからもヒューメイリアンとは出会うこともありそうですね」
「確かなことは言えません。でも、自ら公にするようなことはないでしょうが、あなたに接触してくることは、あるでしょう。あなたが特別であることは、私たちの中で共有されています。その情報が漏れたのなら、より積極的な接触がある……かもしれません」
とにかく、神代が接触してきた理由は分からないけれど、ボクのことを知った上で接触してきたことは、間違いなさそうだ。
「ヒューメイリアンとのセックスは、最高……」
彼女が漏らしたのは、ボクがそうだと知って、確認したかった……と思えた。でもその言葉の裏に、彼女がもう何人もの男性と関係した? と読み取れるものであり、そうなるとボクの使命とも合致してくる。でも、地球人とのセックスに満足できないから、ボクを求めてきたのなら、これからも度々、接触してくるのかもしれない……と考えざるを得なかった。
そして、それはすぐにやってきた。何しろ、彼女は『最高』のセックスを体験したことで、欲望を抑えきれなくなったのだ。
彼女の家に呼ばれた。断れなかったのは、帰宅するところで待ち伏せされ、そのまま連れていかれたからだ。
そこはマンションである。ボクたち姉弟が暮らすマンションより、やや低くて、でも、彼女が暮らすのは最上階。エレベーターで降りると、彼女の家しかない。そういう意味でも、かなり裕福な暮らしをしていることが想像された。
ただ、ボクも戦略も、準備も何もないままここにきて、呆然としているわけにもいかなかった。
神代もヒューメイリアン……?
アデラがそう教えてくれたけれど、彼女の意図がよく分からない。アデラたちとちがうグループの宇宙人が関わっているらしいけれど、ボクを害する意図なのか? それとも利用するつもりか……?
「こっちよ。上がって」
神代は、まるでボクがついてくるのが当たり前、とばかりにそう誘う。ここまで来て、帰ることも考えたけれど、もしそんなことをすれば、今後相手がどういう出方をしてくるか……?
リビングダイニングだけで、二十畳以上はありそうだ。でも、そこで立ち止まらずに、神代は歩みをすすめて、ドアの扉を開けた。そこは部屋のほとんどがベッドだけれど、クイーンサイズ……? 姉と二人で寝ていても、そんな大きなベッドではないので驚かされる。恐らく、彼女の部屋なのだろうけれど、その贅沢さに呆れるばかりだった。
そこに、彼女が一人の少女を連れてもどってくる。まだ小学二年生のボクでさえ、幼いと分かる、神代の妹が真っ赤な顔で、部屋に入ってきた。
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