第4話
「どうして、ボクはここに……?」
戸惑ったのもムリはない。夜、いつものようにマンションで、姉と一緒にベッドに入った。
いつも通りの日常……。でも、その日は姉と特別な関係になったことで、一緒に寝るのも、また特別……。それでも、ボクは無邪気に眠りについてしまう。
ふと目覚めると、そこは見慣れたマンションの一室ではなかった。
全体が白い。でもそれは色が白い、という意味ではない。ボクが横たわる台のようなもの以外、細かく振動するのだ。それによって境界も、そこにある色も不鮮明になり、それで全体的に白っぽく光ってみえる。
それは壁、天井、床であってもそうであり、ふれると軽い衝撃とともに、ぱちんと弾かれる。
つまりこの手術台のような、クッション性が低いけれど、大人が一人横たわっていられる空間だけが、ボクの居場所。周りを探検したいけれど、そうすることさえ難しい……。
普通の小学一年生だったら、泣きだすところかもしれない。でもボクは、懐かしさが先に立っていた。経験というより感覚、不確かだけれど、しっかりとした意識として、かつてそこにボクは寝ていたことがある……、そう感じていた。
その部屋の壁の一部が、ふわっと現れた。でも壁ではなく、それは扉。現れたように感じたのは、そこが振動を止めたからだ。その扉が開く。すると、そこからこの部屋に、人間らしき者が入ってくる。
人間らしき……とする理由は簡単だ。全身が無毛で、目が大きくて顔の下半分に金属製のマスクをつける。ただ、身に着けるのはそれぐらい。つまり全裸……。
体のバランス的には、頭が大きい、腕が長い、足が短い、といった特徴はないし、肌の色も銀色や、緑色といったものではない。ただ透き通るほどの透明さで、動脈や静脈すら皮膚の上からでもよく分かる。
胸はやや盛り上がっているし、下も突起などはないため、女性……? でも第二次性徴は大分遅れているのか? 大人ぐらいの身長はあるけれど、肌は皺ひとつなく、色つやもいいものの、まるで幼児のそれだ。それが全裸で、ボクの前に立っている。立つ……といっても、床はずっと微振動しており、彼女は宙に浮いて、微かに床から離れた状態で直立するのだ。
「そら君ですね?」
微妙なビブラートを利かせた声はまるで機械音のようだけれど、そういってボクにむけ、微笑みかけてくる。
「お姉さんは誰?」
「端的にいうと宇宙人です」
驚きはしない。それは人間らしき……と評した時点で、人間とは思っていなかったからだ。
「端的に……厳密にいうとちがうの?」
「定義によります。地球ではちがう星で生まれた者を宇宙人、と定義しますが、我々はこの宇宙船で生まれたので、宇宙人と称してもよいでしょう」
「……? 元は地球人?」
「そういうと語弊もありますが……。もう少し、理解がすすんでから教えましょう」
女性はもったいぶってそう告げた後「私はアデラ、あなたの担当となりました」
「担当?」
「情報の混乱、錯綜をふせぐため、担当を一人に決めています。こちら側であなたと接するのは、私だけです」
「ボクをどうするつもりなの?」
「あなたは我々と、地球人とのハーフ。その正しい知識をもって、架け橋となって欲しいのです」
「架け橋……?」
驚きが連鎖し過ぎていて、ボクも混乱していた。ただ、このときボクが気になっていたのは、今後ボクはこの宇宙船で暮らすのか……? 残された姉は……? ということだった。
寂しくて、繋がりを求めてきた姉……。そんな姉を一人残して、ボクがここで暮らすなんて……。
「あなたはこれまで通り、地球で暮らして下さい。ただ一つ、我々があなたに求めることは、地球の女性たちと〝子づくり〟して欲しい、ということです」
「子づくり……えッ⁈」
「今日、呼んだのは他でもありません。あなたが大人として一歩ふみだした……と、判断したからです。もう話していいだろう、と……」
姉とのこと、見られていた……? でも、それを尋ねる前に、話は先にすすんでしまう。
「地球上では、あなたのような存在を『ヒューメイリアン』と呼ぶそうですね。認識を統一するため、私たちもそう呼びます。ヒューメイリアンと人類とのハーフ……。地球人からみればクォーターの誕生を、私たちは望んでいるのです」
架け橋……。そういうことか。姉とそういう関係になって、しかもかなり年齢的には早くそうなったことで、彼女らも手を打ってきた。幼くしてそうした行為を経験してしまうと、嫌悪感を抱くこともあって、そういうことから遠ざかってしまうかもしれない、と……。
「ヒューメイリアンの中でも、あなたは特別です。だから一挙手一投足に、興味があります」
「子づくり……といっても、相手のあることですし、ボクも女の子は好きですが、実際にそうなるかは……」
「構いません。過程もふくめ、興味ありますから」
興味? ボクが恋愛をすると、彼女たちに報告しないといけないのか? それとも盗み見られているのか? どちらにしろ、あまり気分のいいものではない。
「これは人類にとっても重要な意味をもちます。努々、それをお忘れなきよう……」
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