二刀流求む

マスカレード

第1話 

 鋭い剣先が天へと突きだしているかのような高い山に囲まれたノビラン王国は、鉱山を保有する他、森と肥沃な平地から収穫できる農産物に恵まれ、それらは人々の暮らしを潤わしていた。

 地形から他国の干渉を受けることもなく独自の文化を築いたが、他国からは見知らぬ文明と資源がある国として関心を持たれ、行商人を装ったスパイたちが常にノビランに出入りしてる。彼らは鳥を使って情報を祖国へと送っていた。


 これまでノビラン王国の豊富な資源を狙って、幾度となく他国が攻め入ろうとしたが、あまりにも険しい山に阻まれているため、高山病などで動けなくなる兵士があとを絶たず、侵略は成功した試しが無い。そのせいか、国を治める王から国民の誰もが、穏やかな性格をしていた。


 そんなある日、異変は起きた。

「敵襲だ! 山を越えて敵が侵入した!」

 

 早駆けの馬にまたがった兵士は血だらけで、掘りの橋を渡って城内に走り込むなり、鞍から転げ落ちた。

 知らせを受けた近衛兵の隊長が話を聞き、王へと伝える。

 敵国はノビラン王国のはるか遠く東に位置するサルンダー王国で、今まで何度もこの国を侵略しようとしては失敗した大国であり、ネックになっているそびえ立つ剣ような山を越えるために、特殊部隊を編成したのではないかということを。


「して、その部隊の規模は? どんな武器を持つのだ?」


「まだ数までは把握できていません。猿のように身体能力に長け、幹などを手で掴み運ていのように移動する兵士だそうです。腰に差した二本の剣で低身長と素早さを活かした切り込みをするらしく、大柄で大刀を打ち付けて戦う我が国の兵たちは、太刀筋を読めず苦戦している模様」


「二刀流か……飛び道具は効かないのか?」


「接近戦に持ち込まれているため、銃や大砲などを使えば、味方も失います」


「ならば二刀流の剣者を収集せよ。兵士でなくとも構わぬ」


【二刀流求む!】

 王の言葉は瞬く間に、城外にも伝えられた。

 立て札、号外ちらしなどが急遽国中に配られたが、一番早いのは伝言だ。

 いくら豊かな国とはいえ、字が読めぬ農民はいる。伝令係を通して王の言葉が国の端まで届き、農地を耕すジョンの元にも届いた。


「お国の一大事じゃて、ワイも参加するかの」

 知らせてくれた隣の農地の主人、とは言ってもかなり離れてはいるが、そこの主人にお礼を言って、ジョンは農業で鍛えられた逞しい身体に凛とした気力をみなぎらせ、放牧地へと向かった。


「ポチ。タマ。悪い奴らを征伐に行くだで、お前たちも力さ発揮するチャンスだべ」

 顔を見合わせたポチとタマは、嬉しそうに身体を振るわせた。


 

 前線では、今日も死闘が繰り広げられていた。

 漂う死臭とあちこちから聞こえる怒号と金属が打ち付けられる音。耳をふさぎたくなるような悲鳴。

 その中心部の空が突然翳った。強い風が吹く。

 戦いの相手を切り倒し、次なる相手を探そうとしていた敵兵たちが空を見上げ、叫び声をあげた。


「何だあれは!?」

「鳥か? 怪物か?」


 自分の国を荒らす憎き敵兵たちに、ジョンは怒鳴り返した。

「鳥や怪物と一緒にするんじゃねぇべ! ワイらが来たからにゃ、お前たちの好きにさせねぇべな」


 警戒して後退りする敵兵と味方の兵に少しずつ距離ができる。

 ジョンは空から命令を出した。

「今だ。ポチ、タマ。ビリビリ攻撃だ!」

 二頭の周りにはあっという間に黒雲が湧きおこり、細かい電網が雲の底を這いまわる。二頭が首を縦に振るのと同時に、枝分かれした電流が敵兵たちを直撃した。

 ぎゃ~~~っ!

 断末魔の叫び声をあげて、敵兵たちの殆どが絶命した。


「ポチ、タマ、やったべな~」

 空からのほほんとした声が聞える。剣を持って唖然とした表情で見上げた味方の兵士たちの目には、犬のように尻尾を振る二頭竜と、その一頭にまたがって竜の頭をなでる農民の勇姿が映っていた。



 

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