第26話 現実という名の苦しみ

 夏のモラトリアムは終わった。


 俺は、現実に引き戻され、東京に戻り、再就職先を探すことになった。

 もちろん、「英語」という能力を生かすことが最優先だったが。


 現状、TOEICの点数が600点しかない。


 転職の面接では落ちまくるのだった。

 そもそも最低700点、出来れば800点はないと、外資系への転職はキツいのが現実だった。


 だが、そうは言っても、働かないと貯金も失業保険も底を突いてしまう。


 俺は妥協するしかなかった。


 転職エージェントを利用して、外資系の案件を抱えている、IT企業を見繕ってもらい、何度かの面接を経て、再就職に成功。


 そこからは、働きながら、毎日TOEICの勉強に励んだ。


 そもそもTOEICは、もちろん「英語」の試験ではあるが、それ以上に「TOEIC」という特性を生かした「点数の取り方」がある。


 つまり、これはテクニックの問題であり、限られたTOEICの試験時間に、いかに最後まで速く、正確に解くか、が点数アップにつながるのだ。


 そもそも時間が短いから、1問あたりの回答時間を短く、素早く解かないと、最後まで解く前に試験は終わる。


 TOEICの試験は定期的に行われるが、かと言ってすぐに受験が出来るわけではない。働きながらも、俺は小さな「夢を」目指すことになった。



 そして、そんな中で「彼女」との関係が問題になる。


 もちろん、北海道から帰った後、LINEでやり取りをして、何度かデートをした。


 だが、森原沙希には大きな「問題」があることに気づいてしまった。


 その問題とはいくつかあった。


 まず1つ目。「潔癖症」。

 最初に行ったツーリングでも感じたが、彼女はとにかく「潔癖症」だった。他人が箸をつけた物は、絶対に口にしないし、タバコは嫌いだし、その癖、変なこだわりがあるのか、デート先はSNS映えするオシャレな場所以外は認めない。


 2つ目。「八方美人」。

 これが問題で、潔癖症のくせに、「男にだらしない」。俺と付き合ってるはずなのに、男友達と飲み歩いたり、遊びに行ったりということがあった。

 もちろん、それを咎めたが、彼女は聞く耳を持たない。

 おまけに、酒癖も悪かった。

 要は、彼女は「誰にでもいい顔」をするのだ。断るということをしない。

 「誰からも良く思われたい」という気持ちが強すぎるのだ。結果的に「本心」が見えない。

 

 3つ目。「一線を越えない」。

 付き合ってから1か月。まあ、仕方ないだろうくらいには思っていた。しかし、それが2か月、3か月経っても、キス以外は何もさせてくれなかった。

 こういうところも潔癖症のなせる技か。いや、そもそも俺のことを本当に「愛してる」と言えるのか、他に好きな男でもいるんじゃないか?

 そう、疑心暗鬼になるには十分だった。


 付き合う前は、相手の「いいところ」ばかり目につくが、付き合ってからは、相手の「悪いところ」ばかり目につく。

 これも、恋愛においては、「あるある」なことだが。


 というよりも、むしろ彼女と付き合って初めて「疲れる」と感じるのだった。付き合う前とは大違いだった。


 彼女への不信感が高まり、秋を迎えていた。

 晩秋、11月。


 森原と付き合ってから約2か月半。


 俺は、不意に、不思議な「再会」を、ある女と果たすことになる。

 しかも、その相手とは、林田ではなかった。林田ひなのとは、あの後、一切連絡を取っていない。


 しかし、その相手が、「運命」を左右する。

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