第6話

「ねぇ、ちょっと聞いていい? スマホで写真の加工とか動画編集しちゃうって、本当?」


「まぁ、専用のアプリ入れれば……」


「ね、そっちのやり方も教えてくんない?」


「じゃ、じゃあ……。そのうち……」


「ね、ID交換してもらっていい?」


 互いにスマホを取り出す。


よく知っているやり慣れた操作なのに、動かす手はぎこちない。


マジで俺はいま泣きそうだ。


こんな憂鬱な場面が他にあるだろうか。


どうせならもっと普通の状況で、女の子とこういう会話がしたかった。


心の中で泣きながらIDの交換を済ますと、彼女と靴箱で別れる。


そんなに悲観せず楽しめ、楽しめばいいんだよ……とは思うものの、そう簡単に納得出来るものでもない。


しばらくして、彼女の方から送られてきたメッセージで、時間と場所を決める。


昼休みの自販機前テーブルだ。


そこなら人通りも多いし、二人きりになるなんてことは決してない。


「はぁ~……」


 ため息しか出てこない。


こんなに緊張するのは、人生初かも。


普通なら放課後の部室とかなんだろうな。


夕暮れの狭いごちゃごちゃした部室に二人きり。


そんな姿を想像してみる。


いいよね、そういうの。


憧れる。


だけど今回は俺のためにも彼女のためにも、この学校の安全と平和のためにも、そんな危険を冒すことは出来ない。


だって、急に正体を現し、暴れられても困るから。


色んな意味で、二人きりになるのは回避したかった。


そう思っているのに、約束の時間より随分早くにやってきて、彼女の分の席まで確保している俺って、マジでなんなの? 


だって座る場所がないからって、場所変えよっかとか言って、人気のない校舎裏とか体育館裏になんか連れ込まれたくない。


俺が死ぬ。


確実に食われる。


人生が終わる。

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