第4話
山頂の学校から麓まで、アスファルトで固められた歩道があるとはいえ、急な坂道が延々と続く。
周囲には原生林がそのまま残っているものの、山さえ下りてしまえばごくごく普通の、どこにでもあるような平凡な街だ。
山麓のコンビニ駐車場兼バス停でとりあえず立ち話をするのが、うちの生徒たちのお約束になっている。
「喉渇いた~」
「なんか買ってこよう」
「アイス食べたーい」
女子軍団のコンビニに付き合って、俺は仕方なくお茶を買う。
店を出るとすぐに彼女たちはアイスの袋を開けた。
日の傾いたコンビニ駐車場の壁に沿って、なんとなく5人で一列に並んでいる。
俺の隣に舞香が来た。
彼女が口にするのはパイナップルのアイスらしい。
その黄色い塊は、白い歯に噛まれ口に含まれると、ころころとその中で転がされている。
「……。アイスとか、普通に食べるんだ……」
「え?」
もぐもぐと口を動かす彼女を、じっと見下ろす。
なにこの子。
もしかして日常を楽しむ系の幽霊だったりしたのかな。
だとしたら取り憑いてるのは、平和な癒やし系バケモノ?
だとしても、普通じゃないことは確かなんだし……。
彼女の口元は再びアイスに食らいつく。
「パイナップルとか食べたことあるの? そういうの、知ってたんだ。アイスって冷たくない? それは大丈夫なんだね」
「う、うん? ……。まぁ、普通に大丈夫だけど……」
「甘い? 美味しい? 今まででアイス食べるのって、何回目?」
不意に彼女は、俺から顔を背けた。
うずくまるようにして顔を隠す。
「え? どうかした? なになに、大丈夫?」
顔が真っ赤だ。
それを隠そうとしているから余計にタチが悪い。
え?
待って待って。
もしかしてここで変身する?
「ちょ……。ここじゃ……」
どうしよう。
ヤバい。
逃げればいい?
いやむしろ逃げたいんだけど、どこへ?
武器は?
いや戦わんだろ。
スマホで警察呼ぶ?
慌てて制服のポケットを探る。
こういうときに限ってなぜか、すぐにスマホは出てこない。
「待って。いまここで何かあっても……」
「バッカじゃないの! 頭大丈夫かよ。しっかりしろ圭吾!」
みゆきがそう叫んで、俺の制服の袖を思いっきり引っぱった。
希先輩は冷ややかな視線を投げかける。
「え、もしかして初恋? 初恋な感じなわけ? うっわ、ないわ~」
「え、さっきまで部室にいたとき、もしかして私邪魔だった? ねぇ邪魔だったのかな? 二人っきりになりたかった?」
みゆきがにらんでくる。
「は? ち、違うって! だから……」
「そうは言っても、あんたと二人っきりにはさせられないけどね!」
舞香の顔は真っ赤だ。
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