第2話
「あ、希先輩だ」
腕に写真部の腕章をつけていた。
特に演劇部だけを見に来たわけではないような雰囲気だ。
首にかけたカメラは、胸の前でぶら下がったまま揺れている。
その視線の先には、やっぱりあの人がいるんだろうか……。
「あ、そういや圭吾。お前タイムラインに載せる画像選んだ?」
「あ……。忘れてた……」
「部活ラインで回ってきてただろ。みゆきちゃん、怒ってたよ」
放課後になり、部室に入ったとたん、そのみゆきに怒鳴られた。
「ちょっと、圭吾! いい加減にしてくんない? 本気で未提出なの、あんただけなんだけど」
「ハイ。スミマセン……」
彼女は一台しかないパソコンの前に座っていた。
俺はスマホを操作する。
選んでおいた画像を添付して、部室のパソコンに送った。
みゆきは動画編集ソフトを起ち上げている。
容量はとるけど、スマホでだって出来ないこともないのにな。
そりゃパソコンの方がやりやすいけどさ……。
やっぱ本当に来るのかな。
部室のドアが開いた。
「あ、演劇部の内村です。よろしくお願いします」
舞香だ。
その姿を見たとたん、俺の手からスマホが滑り落ちる。
それは床に跳ね返って、ガツンと嫌な音をたてた。
「あ、大丈夫? 画面割れてない?」
スマホに彼女の手が伸びる。
「触るな! って、あ……ご、ゴメン……。な、なんでもない。ありがとう」
思わず出た声に、自分で自分もびっくりしてる。
なに言ってんだ俺。
めっちゃ恥ずかしい……。
「あ、いや……。私もゴメン。人のスマホに、勝手に触るもんじゃないよね」
落としたスマホを自分で拾い上げた。
画面は割れていない。
俺はやっぱり、彼女の顔をまともに見られない。
「ちょっと圭吾。今のは酷くない? 拾ってくれようとしただけでしょ」
「はい。すみません」
「早くタイムラインに載せる画像送って」
「送ったって」
みゆきに急かされ、マウスを動かした。
メールの送受信をチェックする。
新しい受信を知らせるアイコンが浮かび上がった。
そんな簡単な作業をしているのに、舞香からの熱い視線を手元に感じている。
「パソコン関係、強いの?」
「別にそういうわけじゃ……」
これくらい、本当にどうってことない。
彼女は今度は、みゆきの操作するパソコン画面をのぞき込んだ。
「こういうの、出来るようになりたいんだよねー」
「うん。いいと思うよ。色々出来て楽しいし便利だし」
この二人は初対面だったらしい。
みゆきが操作の説明を始めた。
彼女はそれをメモをとりながら、一生懸命に聞いている。
その後ろで俺は、二人の様子を落ち着かない気分のまま、ちょろちょろと眺めていた。
こんな狭い部室で、いくらなんでも二人っきりはないだろ。
俺がいなくなったら、コレ絶対みゆきがバケモノに襲われて、死亡確定なヤツだし。
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