第6話
「本当にいいの?」
希先輩の確認に、荒木さんはうなずく。
「本当にその条件で、モデルを受けてくれるなら……」
「お、俺は反対です!」
冗談じゃない!
得体の知れないヘンな奴になんて、絶対に関わりたくない。
「動画編集なんて、今どきスマホでだってやろうと思えば出来るのに、うちのパソコンが使いたいだなんて……。そんなの、自分たちでやればいいじゃないですか」
「ダメかな……」
荒木さんの視線は、希先輩を追った。
いつもクールな先輩が、それを察知してわずかにうろたえる。
「そ、それは……。私は別に……」
「圭吾は人物に興味ないから、だからそんなこと言うのよ。いつも風景とか植物ばっかりでさぁ」
みゆきが声をあげた。
そのまま背の高い荒木さんを見上げる。
「わ、私が荒木さんに、モデルをお願いしてもいいってことですよね……」
端正な顔は、美しく微笑んだ。
「もちろん。編集作業、教えてもらえる?」
「部長! 私が教えます。だったらいいですよね!」
「う、うん。それで、写真部全員がモデルをお願いできるなら……」
「もちろん。その覚悟でお願いしに来ました」
イケメンスマイルが炸裂する。
ノックアウト!
そこからは早かった。
あれよあれよという間に日程が決まってしまう。
「じゃあ……。みゆきちゃん、お願いできる?」
「ハイ!」
くそっ。
どいつもこいつも簡単に手懐けられやがって。
俺はちらりと舞香を盗み見た。
いまの彼女は、いったいどうなってしまっているのだろう。
見た目にはなにも変わらない。
完全に普通に見える。
去年同じクラスではあったけれど、特に接触があったわけではないから、そもそも普段っていうのが分からないワケではあるんだけど……。
まぁ、そもそも、俺の方から女の子に積極的に話しかけることなんてことも、基本的にないし、ましてや向こうから来るなんてことは、当然全然全く皆無なワケなんだけど……。
荒木さんが俺にささやく。
「ところで、舞香とはどういう関係?」
「去年同じクラスだったってだけです」
「えぇ? 『星空』フォルダーなのに?」
驚いたようなその大げさな表情は、演劇部ゆえなのか元々の素なのか……。
どう返事をしていいのか分からず、動揺を隠せない俺に、彼はクスッと微笑んだ。
「そっか、そこからなんだな。了解」
爽やかな笑顔で手を振って、彼らは部室を後にした。
嵐のようなその去り際に、舞香と目が合う。
彼女は俺に向かって、小さく手を振った。
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