第5話

俺がマウスを動かそうとしても、イケメンの圧がそれを許さない。


整い過ぎた顔が再び耳元でささやく。


「『星空』フォルダーだなんて、ロマンチックでかわいい」


「ち、違うんです……」


「心配しないで。ちゃんと協力するから。約束」


 イケメンのイケボなウィスパーボイスとウインクは、男にすらその効力を発揮するということを、俺は生まれて初めて知った。


「だ、だからそれは誤解で……」


 荒木さんのマウスを操作する手は止まらない。


パソコン画面には、PCの空き容量も表示されてしまっている。


彼はそれを確認すると、ニッと微笑んだ。


次の瞬間、彼は大きく両腕を振り上げたかと思うと、膝を折り額を床にこすりつけた。


「撮影会のモデルは快く引き受けるし、なんなら写真部の部員が好きな時に声をかけてくれたっていい。その時間でも撮影に付き合おう! だから、演劇部活動紹介と上演映像の、撮影と編集を教えてください! お願いします!」


「演劇部なのに? 舞台じゃなくてなんで動画配信にこだわるんですか?」


 俺がそう言った瞬間、希先輩ムッと眉を寄せた。


俺は「おかしくない?」っていう次の言葉を飲み込む。


「……。舞台映像をネットで流すのは、今や常識だよ」


来ていた女の子たちも口を開いた。


「自分たちでやれたらいいんだけど、パソコン使える人が他にいなくて……」


「貸していただけるだけでいいんです。それと、使い方を教えていただければ。後は自分たちでなんとかするので……」


 『星空』フォルダーの舞香が言う。


「高校演劇を本格的にやっている学校って、実はあんまり多くはなくて。交流の難しいなか、それぞれが動画を撮影し、互いに配信しあって交流しているの。より多くの人にも見てもらえるし。ネットで動画をあげることが出来れば、演出の助言や演技指導のアドバイスも受けやすくなるから……」


 イケメン荒木部長の手が、俺の肩に乗った。


「撮影モデル、喜んでさせてもらうよ。写真部の皆が、好きな時に好きな演劇部員を指名できるってことで、お願い出来ないかな」


 その言葉に、希先輩を始めとする部員全員が、ゴクリとツバを飲み込んだ。


顔出し人物画像の撮影が難しい昨今、その申し出は非常にありがたいけど……。

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