第2話

 地上が近づくと彼女は閉じていた目を開け、辺りを見回す。


辺りに人気はなく、周囲も暗い。


だけど俺にはそれは、彼女が動揺しているようにも見えた。


ふわりと地上に降り立ったその女の子は、三脚のすぐ横を通り過ぎる。


しまった。


カメラ持って逃げればよかった。


小遣い貯めてやっと買ったカメラだったのに……。


三脚はどうでもいい。部の共用品だ。


だけどカメラだけは何とかならないものか……。


 半透明の彼女は池の縁に立つと、じっとその水面を見下ろした。


え、どうしよう。


このままどこかへ行ってくれなかったら、俺はあのカメラを諦めるしかないのだろうか。


ヘンに近寄って妙なことに巻き込まれたくなんかないし、余計なことをして襲われたくもない。


あのカメラさえいまこの手に握っていたら、さっさと逃げ出して帰れたのに……。


備品の三脚はどうなっても、後で怒られるくらいの覚悟はある。


反省文だって書ける。


だけどあのカメラだけは、なんとか救い出したい!


 彼女が振り返った。


不思議そうに校舎を見上げている。


その校舎の陰から、一人の女の子が出てきた。


去年同じクラスだった内村舞香だ。


それほど親しい間柄ではないけど、まぁ普通にしゃべるくらいはしたことがある。


演劇部の彼女は、衣装や小道具やらを詰め込んだ段ボール箱を抱え、とことこやってきた。


彼女は半透明の少女にまだ気づいていない。


彼女を見つけた瞬間、幽霊のようなその女の子は、パッと動いた。


「えっ……」


 一瞬の出来事だった。


その半透明の体は、彼女と重なったかと思うと、そのまま吸い込まれてゆく。


舞香は持っていた段ボールごと、ガクリと地面に倒れた。


体を乗っ取られ意識を失ったのか、そのまま動かない。


「ちょっと待って……。嘘だろ?」


助けに行ってやりたいが、俺にそんな勇気はない。


すぐに気づいた彼女は、頭を抱えながら起き上がる。


落としてしまった段ボールに気づいて、散らかったものを拾い集めた。


頭を気にしながらも立ち上がると、そのままこっちへ向かって歩いてくる。


もう逃げられない! 


俺は覚悟を決めると、隠れていた階段裏から一歩を踏み出した。

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