第3話
「あ、圭吾だ。いたの?」
「う、うん」
じっと俺を見上げてくる。
なんだよ、そんなに見てくんなよ。
俺の背中はすでに汗でびっしょりなんだぞ。
「ねぇ、よかったらこのまま、一緒に帰らない?」
「え、なんで?」
「いや、ちょっと頼みたいことが……」
「ゴメン、いま忙しい」
「そうなの?」
「うん。すまん。また後でな」
何事でもないかのように、慎重に冷静さを演じたまま、彼女とすれ違う。
心臓はバクバクだ。
手足の動きもぎこちない。
背中を見せたら突然襲われるかとも思ったけど、普通にすれ違っただけだった。
振り返るのも恐ろしくて、ようやくたどり着いたカメラ横で呼吸を整える。
女子たちの平和で呑気な話し声が聞こえてきて、俺はようやく一息ついた。
完全下校時間の近づいた校内だ。
日はとっぷり暮れている。
彼女の消えた校舎裏から、また数人の女の子が出てきた。
今度は偶然一緒になったらしい、運動部の連中と一緒だ。
その中に舞香もいる。
俺は彼女に向かってシャッターを切った。
パシャリとフラッシュが光って、思いっきりにらまれる。
「なにあれ。写真部かよ」
「盗撮? ねぇ盗撮?」
「そ、そうではないと思うよ……」
「お腹空いたー。早く帰ろう」
「肉まん食べたーい」
肩までの髪をなびかせて、彼女は消えた。
体内に空から降ってきた女の子を取り込んだまま……。
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