龍神さまのいるところ

岡智 みみか

第1章 第1話

 ウソみたいに信じられない話なんだけど、空から女の子が降ってきた。


有名なアニメのワンシーンみたいに、仰向けに寝ている女の子が、ふわっと。


天から降りてくるみたいな感じでさ。


4月始めのまだ肌寒い校内に、俺はそんなものを見てしまった。


 山の上にある高校は、その山頂を削り、池を埋め立てて整地されたらしい。


校内に埋めきれなかった小さな池が残っているのが特徴だ。


ビオトープとかいうやつで、自然をそのまま残したとかいう名目の小さな池には、カエルだとかメダカなんかが住んでいる。


その周辺には芝が植えられていて、原生林の残る山腹と比べると随分と見栄えが異なるが、一種の憩いの場になっていることは間違いない。


あんまり人気はないけど……。


写真部の俺は、どうしても春先の夜空が取りたくて、その池の脇に三脚を立てレンズの調整をしていた。


憧れの天体写真撮影のために、ネットで色々と調べた時間と方法をスマホで確認しながら、レンズを空に向けた、その直後のことだった。


 何事が起こったのかと思った。


カメラのレンズにゴミでも付いているのかとのぞき込んでみたが、何もない。


そんなゴミもないか。


ただアニメと違ったのは、その女の子は真っ白な袴を着た肩までの黒髪の女の子で、体が半透明に透けている。


「あ、あの……。あれさぁ……」


 誰かに声を掛けようと思っても、周囲には誰もいなかった。


まだまだクソ寒い春先の、こんな屋外での長時間撮影に付き合ってくれようなんて奴は、写真部にもいない。


辺りはすっかり日も落ちて、完全下校時間も近づいている。


残っている生徒たちもほんのわずかだった。


その女の子はゆっくりと、こっちに向かって落ちてくる。


どうしよう。アレはなに? 


宇宙人? 地球侵略? それとも……。


考えている場合じゃない。


俺は迷わず、校舎の陰に身を隠した。


こういうのは、遠くから観察するに限る。


だろ?

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