001 - Лунный свет сияет/月射す
日蝕暦九七四年 十月
第二連邦首都近郊
燃えるような
突き刺すような冷気に
シュウシュウと音をたてる氷のくぼみには、月の子が顔を出していた。防護レンズ越しに横目でそれを目視する。ざっと五十センチ弱といったところだろうか。視界の端にチチチと正確な計測データが表示されるが、どのようなサイズであろうと殲滅しなければならないことに変わりない。
オーガンジーのように透きとおった微細な光の粒の集合体であるそれは、月と同じいろをもっている。はじめにそれを月の子と呼んだ者の、なんと言葉選びの秀逸なことか。
うつくしい見た目をしていて、しかし脅威を孕むそれは、エレメイ・ロマーノヴィチ・ザハロフの、八体予測された殲滅対象の残党であった。
「九体目か。月射予測が外れるだなんて──」
得意のバックスケーティングで月の子と距離をとりながら、両の腕に身につけた装備でコアに照準を合わせる。ちいさな個体ではあるが、心臓を奪われたならそれまでだ。むこうから狙撃されないよう細心の注意をはかりながら移動し、産み落とされたばかりでまだ淡い月の子のエネルギーが肥大化してしまうよりはやく、コアをロックし、光線を撃ち出す。
月と相対する太陽のようにあざやかな
「やあ、
月がおだやかなかがやきを取り戻し、やがて訪れた沈黙。投げかけられたかろやかな声音によってそれが破られてはじめて、自身の息までもがとまっていたことに気がついた。
あらゆる感覚をはっきりと取り戻した身体にいやな汗を感じ、エレメイは顔をしかめる。そうして向日葵いろの瞳だけをちらりと声の主のほうに遣れば、ダニイール・アナトリエヴィチ・イワノフは、向日葵の花ように鮮やかな黄いろの痣が咲く頬をくしゃりとさせ、うんと大げさに、傷ついたといった
「ピックアップしに来たよ」
いかにも
揶揄いの反応はおろか、返事をもとめることさえしないのは、いつものことだ。どうも距離感の掴めない三つ上のこの男に、エレメイはこの半年とすこしのあいだ、振り回されっぱなしなのである。
ブレードをしまい、身体をねじ込むようにしてせまい機体に乗り込むと、エレメイは防護レンズを外し、まぶたを下ろした。休むにはいささか窮屈であるが、致し方あるまい。
「
「揶揄ってるのか?」
浮力システムを起動させたのと眠気が襲ってきたのでは、どちらがはやかっただろうか。くすくすと笑う声を向日葵いろの双眸で睨みつけると、「ごめん、ごめん」とプラチナブロンドのやわらかな髪を愉しげに揺らすのが見える。
ダニイールの用いた歌の一節に、まどろみに誘われつつあるエレメイは、懐かしい姉の声を聞いた気がした。
「月射があってすぐだから、またすぐに任務が入るだろうけど」
あくまで運転に徹するダニイールは、こちらを見遣ることはしない。
「それまで寝ているといいよ」
目を覚まさせたのは誰だか。
エレメイは鼻で笑うと、アクリル窓の外からいつまでもこちらを見つめてくる月を視界から追い出すように、まぶたを閉ざした。
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