第2話 魔王と大賢者と首になった宮廷魔法使い
絶惺のドアは重く、冷たい。
しかしこのバーは実力者の集う裏の会合の開催地でもあるのだ。
有名どころで言うならば
最強のギルドパーティーと名高い「アルゼルト」やハイエナ「マルク・ディートリン」などは知り合い、魔王「フェルトクス・バーゼン」や大賢者「ルーコルド・ミリカシア」などとは友人関係にもなれた。どちらもαランクだ。
「いらっしゃい、めずらしいねテスフィーネ」
「マスター、聞いたでしょ。大量リストラされたりなんかしたら飲まずにやってらんないよぉ」
「はっはっは。まあうちへの入金が最後にならんことを祈るのみだな」
愉快そうに見えて実は心配をしてくれているマスターを横目に見てフェルトクスたちを探す。
幸い広い店内の中でも視覚的視線の向きやすいところにいたようで右斜め前に彼らを見つけることができた。
「おや、テスフィーネ。やはり首になったか」
「さもありなん、ご老人のような人外でない限り王族は転生者を優先するだろう」
「ルーコルド?知ってたなら教えてくれればよかったのに」
「まあ、まあ座りなさい。今後のことに迷ってるんだろう?話を聞こうじゃないか」
何でも知っているような振る舞いを見せ、それでいて陽気なこの爺さんは「ルーコルド・ミリカシア」。
その横でちびちびと酒をやっていながら周囲を威圧しているのが「フェルトクス・バーゼン」。
私はルーコルド爺さんの誘いに乗りながら椅子に座り注文を済ませる。
「マスターキャルド煮込みとラクセンのワイン」
「あいよっ!!」
「それでテスフィーネ、今後はどうするつもりなんだい?君が住んでいたのは王宮宮廷魔法学院寮立ったと記憶しているが」
まだ注文したばかりなのにな・・・
そんな抗議の意味も込めて顔を上げるとじっと私の目をルーコルドの深緑の瞳がとらえた。
この爺さんのなんでも見通しているかのような視線にさらされるといつも委縮してしまう。
私の悪い癖がついつい出てしまうのだ。
今日もそれで無理やり迫ってくる勇者一行から逃げるのに苦労した。
何を血迷ったのか対して顔もよくないくせに
「俺といれば幸せになれる、おれが君と世界を救うんだ!俺はこの世界で一番強いのだから!!」
と人目がある大通りで告白してきたのだからたまらない。
思い出したら吐き気がしてきた。
「いくさきもないだろう?どうせなら爺さんが弟子にすればいい。」
「わしの弟子は貴様だけで十分じゃ、昔はかわいかったのに弟子にしてから可愛げのかけらも見当たらなくなってしまった。ほんとにかわいがりたいものは弟子にはせん」
「テスフィーネの得意魔法は水系統だったよな・・・テスフィーネ、私の弟子になるか?」
はぁ、明日からどうしよう。師匠でも出来たら楽なんだろうけど。
「テスフィーネ?」
下手したら王族が勇者を取り込みたいがためだけに政略結婚させられるかもしれないのか・・・早く仕事か何かを見つけたいな。
かなり真剣に自分のことを考えていただけなのによい笑顔のフェルトクス肩に手を置いて怒っていた。何かしてしまっただろうか?よくわからない。
「君が考え事を始めると人の話を聞かないのは相変わらずだな。」
「私何かしてました?」
「ああ、していた。私の呼びかけにも答えず、今にも死にそうな顔をして、何もない空間を見つめていたぞ」
それではただの変人ではないか
いつの間にか来ていた料理をつつきながらフェルトクスの話を聞く。
「どうせ行く当てもなくて下手すれば行き遅れる前に政略結婚だろう?
それぐらいなら今私がしている研究に水系統魔法のエキスパートが必要だから
弟子になって手伝ってくれないか、といったんだ。」
それはねがってもない好都合な話だなと思う。
それだけに何か裏があるのではと疑ってしまうのは決して私が疑い深いのではなくフェルトクスがこれまで悪辣なことをして、魔王なんて呼ばれているせいだ。
「研究って言っても何をさせられるんですか?」
「そうじゃぞ、フェルトクス。わしのかわいいテスフィーネを実験などに使わせるつもりはないぞ」
「師匠が昔していた実験よりははるかに易しい実験しかしたことないですよ。
テスフィーネには水の噴射と状態変化による質量変化を魔法で意図的に制御し軍事転用するための研究を手伝だってもらいます。」
何を言ってるかさっぱりだ。
でも人体実験的何かではなく単純な実験の手伝いというのは理解できたので願ってもない好機として了承の意思を伝える。
「やります、フェルトクス・・・師匠?」
「むず痒いので今まで通りフェルトクスでいい。」
仕事を見つけて安心した私は、夜も更ける中酒瓶を開けていくのだった。
賢者はチートを断罪する @gyokuki_kazuma
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