【🏝完結🏝】Sky

...

　「雪はライディングのチェックのために撮ってるだけだから！　いや、撮ってんのは天で、雪はただカメラの横にいるだけだから！　はは、コータ、ほんと、おもしろいな！」

　え、そうなの⁉︎

　かぁぁ、と、耳に熱が集まる。

　「ほら、あっち、月ちゃんもいるじゃん、撮らないの？」

　それは犯罪でしょう⁉︎

　「あしたは三者面談だもんなぁ。初イベントが面談じゃ気合い入るよなぁ」

　ぼく、保護者じゃないんで。

　そうじぶんで否定して、じゃぁその録画はなんなんだよ、て、またじぶんで恥ずかしくなる。

　「いいよ、いいよ。そういうのは、素直になっていいことなんだから。あ、レオのはちゃんと、オレが撮ってるからな？」

　レオが、聞いてない、みたいに、ビクリとふり向く。

　そういうば、スクール中たまに無人の三脚が浜にセットされていた。あれは、レオを撮ってたのか⁉︎

　思わず、責めるような目で見てしまうけど、カイトさんはなんでもないようにサラリといってのけた。

「フォームチェックな？　きっちり成長して、うちの店ではたらいてもらわないと。大切だから、若い子。レオは目つきがホオジロザメだけどさ、そこをこう、なおすと？」

なおるもんじゃないんだろう、と、もういまとなっては思うんだけど、たしかに目元が和らぐといわゆるイケメン…いやまだかわいい、て感じか、女の子受けは、する感じだ。

　「夏に来るから。東京から女の子がたくさん。こんな若い子が店にいてくれたら、リピーター増えること間違いなし」

　うわっ！　やっぱり、人買いだっ！

　「ねぇ、やっぱりなんか失礼だよね？」

　あわてて首を振るけど、カイトさんの向こうで、レオが凶悪な目を見開いて固まっているのが見えた。

　「て、のは、冗談…いや、ほんとなんだけど、」

本心がダダ漏れだ。

　「あ、レオ、ちょっと悪いけど小山先生とこで入っといて？」

「……、す。」

カイトさんにいわれて、レオが弾かれたように走りだす。

　まだまだ子どもの背中に、やったぜ！　て、素直に書いてある。

　「嬉しそう…子ども、て、残酷だよね。実はさ、」

その背中を見送って、カイトさんが苦笑い。

　「正直いまのレオじゃ、録画なんかしても意味ないんだ。なおすもなにも、できてないから。はは。」

　えぇっ！　じゃぁ、なにやってんですか⁉︎

　「自己満足。オレの。成長の、記録？」

ははは、て、カイトさんははじめて見るような顔で笑って、下を向いてしまった。

　え、照れてますか？

　「見る？　いま、見たいって、思ったよね」

　思ってません。

　「仕方ないな」

肝心なことは伝わらないらしい。カイトさんはネコみたいなことをいって手元のカメラを勝手に再生しはじめた。

　「はは、へたっぴだな〜」

カメラ（GoProとかいうらしいんだけど）には、ぼくから見れば立派にテイクオフしているレオがいる。

　「腰が引けてるわ、こんなんじゃ、ダメ」

て、カイトさんの顔はぜんぜんダメって感じじゃない。

　「あ、こっちも見てよ。こっちは、チビな？」（チビってのは、カイトさんの息子さんだ）

　チビに至っては、もはやじぶんではのっておらず、

「いま、三歳。」

あのシュワシュワにカイトさんが腹這いでのるロングボードの先端に、ポーズをつけて立っているだけだった。

　「はは、これ、のってるつもり。はは」

　カイトさんの中では、もうチビもレオも、いや、もちろん変わらないわけではないんだろうけど、

　「いつかさ、レオとチビがツアーとかまわるようになってさ、サーフィンライフから取材とかくるだろ？　そしたらまぁ、百万円で公開してもいいかな。」

　あ、変わらないんだ…

　カイトさんの親バカは、だいぶ進行しているようだ。

　「……で？」

GoProの画面を閉じて、カイトさんが顔を上げた。

　「コータくんは、きょうはどうしたんですかぁ？」

ふざけたような声色で、もう表情はまじめなはなしをする大人の顔になっていた。

　もしかしたらぼくも、チビやレオと、変わらないのかも知れない。一瞬、そんなふうに思わせる。きっとこれが、子どものはなしを聴く『パパ』の顔ってやつだ。天さんも、やっぱりたまに、同じ顔をする。

　「海、入れてもらえなかった？」

「……、」

「ありゃ、」

　そう笑う顔は、小山先生や谷川先生が見せるものとは、少し違う。

　「お兄さんが、当てようか」

思わず顔を向けると、

「あ、ダメダメ。ちゃんと。撮りながらでいいから。あ、これはネコに見せてな？　ネコはちゃんと見て、なおすところをじぶんでなおせるから。」

　ぼくはあわてて画面に目を戻す。なんだかずいぶん重たい任務がくっついてきた。

　画面から目を離さず、カイトさんのはなしを聴く。