...
「「「ようこそ! 至大寮へっ!」」」
パパパーーーンッ
派手な音を立てて弾けるクラッカーに、ぼくとユウト、レオの三人、目を見開いてピシリ、固まる。
なになになに⁉︎ なにごと⁉︎
星はやっぱり見えなくて、それでも決行だからともみじ饅頭に連れられきた屋上で。
新入生三人がそろうなり弾けたクラッカー。
屋上に広げられたキャンプ用のテーブルにはチキン、フライドポテト、ハンバーグ、ソーセージ、サラダに焼うどん、おにぎり(これはネコが握ったに違いない)、それにやっぱり大量のデニッシュが所狭しと並んでいて。
いくつものランタンに照らされたみんなの笑顔。
「浩太くん、悠人くん、麗央くん、歓迎しま〜す!」
改めて小山先生がそう両腕を広げると、拍手が起きた。
「よろしく〜」
天さんが戯けて笑う。となりの雪さんも、表情にはでないけどきっと笑っている。
寮医さんがニヤニヤ、はやく月子ちゃんに謝っちゃいなさいよ、て、小声で笑う。
となりで寮母さんと生活指導のひろみ先生と、
「料理は寮母さんとひろみ先生だから、間違いねぇよ。」
担任の井上先生も笑う。
「なんか、驚かせちゃったみたいで、ごめんね? ちゃんと、ラッシュの前、閉めるよ。」
「わたしには目が眩まなかったって、おかしくない?」
天使…月子さんとそのルームメイトの冴子さんも、笑う。
どうしよう。
どうしたらいい?
こんなふうに歓迎してもらう資格なんかない。
ぼくは、
ぼくがここへ来たのは、
うれしいのに、気管の奥から熱い塊が迫り上がる。
向こう側へいきたいのに、脚が竦む。
「……、」
口を開けても、ことばはでない。
ぼくは、
と、
「コータ!」
あ、
震えるぼくの手を引いたのは、やっぱり、もみじ饅頭だった。
「おにぎり、オレがつくっつやったから! めちゃうまいぜ!」
ネコが、
ぼくはまだ、クッキーのお返しもしていないのに、
それなのに、
ネコが、おにぎりを、
ぼく、まだネコになにも、
せっかくみんなが笑顔なのに、ここで泣きだすなんてマナー違反だ。
そうがんばるのに、
「う…ひぐ…っ、」
ユウトがうしろでもう泣きだしていた。レオはなにが起こったのかと、凶悪な目を彷徨わせている。
「よし! 食うぞ! 腹減ったー!」
そのふたりの肩を抱いて天さんと井上先生が雄叫びを上げた。
その夜、星も月もない夜の空の下でぼくたちを待っていたのは、少し遅れたサプライズ歓迎会だった。
みんなでひろみ先生と寮母さんの手料理と、ネコの爆弾みたいなおにぎりを頬張る。
月子さんと、なぜだか冴子さんもにも頭を下げてみんなに笑われて。
多々戸の海の自慢話を聞いて。
ユウトがとにかくしあわせそうにチキンを頬張るのにみんなで笑って。
レオが小山先生にやたら料理をとりわけるのに笑って。
ネコがぼくの膝の上で井上先生のモノマネをして怒られて、でも笑って。
それを、輪の外から肩を寄せた天さんと雪さんがしあわせそうに黙って眺めていて。
こんなふうに暖かいなにかに、なんの心配もないなにかに包まれるのは、十六年生きてきてたぶん、十五年ぶり…産み落とされたときに包まれた毛布以来…に、違いなかった。
ネコはずっと、震えるぼくの手を、離さなかった。
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