...

 新月だから星を見るのにいい、と、寮医の先生がいっていたのに。

 お風呂を済ませるころにはもう、春特有の海霧がではじめて、夜空と海との境界線を消していた。


 星、見えるのかな。


 ネコの入浴時間はほかの生徒ととはずらされていて、いまはふたり、お船の露天湯から空を窺っていた。

 「しらねぇー。」

 目下、空気を入れたタオルで湯船に泡ぶくをつくるのに夢中のネコは星どころではないらしい。

 「へぇ、こいたー!」

 ぶくぶく、タオルを沈めて泡ぶくをつくってはカラカラと笑う。

 あぁ、そうだ。ネコはまた寝ちゃうんじゃないかな、なんて、ぼんやり考える。


 ネコ、眠くならない?


 濡れた前髪をかきあげてやると

 「きょうは、ねないよ!」

 タオルみたいにほっぺを膨らませてきた。


 そっか…


 灯りのない夜の空を見上げながら、ぼくはもう、なんだか気持ちよく眠くなっていた。

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