ただいま

 「こっち、こっち!」


 もみじ饅頭の小さな手に引かれて、海岸を進んでゆく。


 高二とか、ないだろう…


 ぼくのルームメイトだとはなすこの、目の前の少年は。


 背丈はぼくの腰ほどしかない。

 まだ成長しきらない華奢な体躯。


 「おっせぇよ、コータ!」


 幼い子特有のオーバーな身振り。

 声変わり前のハスキーな声で得意げにちょっと慣れないイントネーションで『オレ』なんて使ってみるのは、ついこないだボランティアで遊び相手をした学童保育の子どもたちとなんら変わらない。


 引っ張られるまま、浜の左端の階段を登り漁業道路にでる。

 「ここだから!」


 …は、


 道を挟んだ海岸沿いに建つその寮は、


 …寮?


 想像していたものとまったく、別物だった。


 白とブルー。

 四階建ての小ぶりな建物の配色は、真夏の空を思わせる。

 その周りをグルリ、真っ白に塗装された木の柵が目隠しに巡らされている。

 柵の向こうからはパームツリーが空に延びていて、サワサワと、初夏の風に葉を鳴らしていた。


 どこか、南の島のペンションかゲストハウスみたいだ。


 「ただいまぁ!」

 少年がやはり得意げに(そうだろう、この瀟洒なペンション風のロッジは彼の『家』なのだ)木戸の横のベルを鳴らす。

 と、ほどなくして、ギギ、と音を立てて戸が開き、小柄なメガネの男性が顔をだした。

 「おかえり、ネコ」

男性はネコの頭をなで、

「コータ、連れてきた!」

「ああ、」

 ついで、


 「おかえり、」


 ……っ、


 「浩太くん」


 そう、にっこり、ぼくを迎えた。

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