第14話 幸せ


 翌朝ゆいちゃんを家まで迎えに行き、一緒に学校まで行く。と言ってもゆいちゃんは運動神経がいいようで松葉杖も上手に使って、僕が手伝わなくても大丈夫そうだった。


「私、才能あるんじゃない?」


「あるかもね、僕いらないんじゃ」


「一人じゃダメって言われたから仕方ないよ。迷惑ばっかりかけてるね私」


「そんなつもりじゃないから!」


「でもね、正直かずきと長くいれて嬉しい」


「そ、そうだね。僕もそれは嬉しいかな」


 僕は明らかに顔が赤くなってたと思う。今思えばゆいちゃんは僕がすぐ照れるって事を知ってて言ってたんだろう。


「調子に乗ってたらこけちゃうかもねー!」

 ゆいちゃんがふざけていたら案の定躓きそうになってしまった。僕は咄嗟にゆいちゃんの肩を支えた。


「あ‥‥ありがと」


 こ、これは。よくドラマなどで見る光景。顔も近いしもしかして‥‥。僕がそんな妄想をしていると、


「もういいよ」

 珍しくゆいちゃんの顔が赤くなっている。


「あ、ごめん」

 僕はそっと離れると、また並んで歩き出した。


 僕達はまだ手も繋いだ事がない。ゆいちゃんをおんぶした時は、必死過ぎてよく覚えていなかったし。松葉杖がなくなったら‥‥と僕は決めた。


 学校に無事つき、階段もゆいちゃんは片足でぴょんぴょん飛びながら上がるもんだから感心した。一応後ろについてはいたけど、もう大丈夫だからとゆいちゃんが言うので、僕は自分の教室に戻った。


 それからしばらくして松葉杖なしでも歩けるようになったゆいちゃん。ギプスをはめている為少し歩きにくそうだが、特別不便そうにする事はなかった。


 そうだ、そろそろ‥‥大丈夫かな。僕は帰り道で勇気を出して言ってみた。


「あのさ!!」


「ビックリした!なに?」


 僕はつい大きな声を出してしまった。


「僕達って付き合ってもう一ヶ月だよね」


「そうだけど」


「手とか‥‥って、繋いでみたり‥‥する?」


「う、うん。そうだね」


 しばらく沈黙が続き、どちらが手を差し出すかという空気の中、男の僕がリードしないと!と思い勇気を出してゆいちゃんの手を握った。

  

「手、べちょべちょだね」

 ゆいちゃんが微笑んでくれたお陰で、少し緊張の糸が解けた気がした。


「べちょべちょって失礼だね」


 ぎこちなく手を繋いだまま歩きだす。僕は心臓の音がゆいちゃんに聞こえるんじゃないかと思う程ドキドキしていた。


 僕は、少し目線を下に向けたまま歩くゆいちゃんを横目で見ながら考えていた。これもいつか慣れて、このドキドキや奮闘した日々を思い返す時が来るかな。


「もう、着いちゃったね」

 ゆいちゃんが少し残念そうに言った。


「そうだね」

 いつもの道なのに近く感じた。きっとゆいちゃんもそう思ってくれたのだと、僕は嬉しかった。


 手を繋いだ時同様今度はどちらから手を離すか迷っていると、ゆいちゃんがそっと離して言った、


「じゃ、じゃあまた明日ね」


「うん」


「明日も、一緒に帰るよね?」


「そうだね」


 僕達はもう、いつもの僕達ではなくなっていた。少し大人になった気分だった。これがリア充ってやつか。僕は今ものすごく幸せを感じていた。



 しかし、何か大事な事を忘れているような気が。

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