第13話 青春


 僕達は中学では違うクラスだった為、休み時間になるとゆいちゃんは僕の教室に度々遊びに来ていた。


「ねえ、今度の花火大会もちろん行くよ

ね?」

 僕の机の前にしゃがんで、ちょこんと顔と手を机の上に乗っけるゆいちゃん。


「花火大会?」


「そう!かずき用事とかないよね?」


「ないと思うけど」


「じゃあ決まりね!」


 花火大会か楽しそうだな。やっぱ浴衣着るのかな。僕は浴衣姿のゆいちゃんを想像していた。


「なにニヤけてんの?」


「ニヤけてないよ!」

 すぐ顔に出てしまう、今の僕は。


「もしかして変な事考えてるー?」


「考えてないよ!ただ‥‥」


「ただ?」


「浴衣、着るの?」


「うーん、どうしよっかなー。着て欲しい?」


「いやどっちでもいいけど、ゆいちゃんが浴衣着るなら僕も着ないと合わないかなって思って」


「なにそれー。正直に言ってくれたら着て行くのになあ」


「正直に言ったんだけど?」


「もー素直じゃないんだから!」

 そう言って笑っている。


「‥‥かわいい」


「えっ?私の事?」


「なにが?」


「今かわいいって」


 僕は心の声が出ていたようだ。


「あっ、とにかく花火大会楽しみだなー」


「はぐらかさないでよー!やっぱり浴衣姿見たいんでしょー?」


 やっぱりゆいちゃんがいる生活は最高だ!!僕は充実した生活を送っていた。



 花火大会当日。ゆいちゃんの様子から、浴衣を着てくるだろうと期待して僕も浴衣を来て公園で待っていた。


「お待たせ!」

 後ろからゆいちゃんの声が聞こえて振り返ると、


 はっ!浴衣‥‥じゃない。ゆいちゃんはいつも期待を裏切ってくる。


「あれ?なんで浴衣なの?」


「いや、ゆいちゃん着てくると思って」


「言ったっけ?」


 言ってはいない、ただゆいちゃんはスマホで浴衣のどちらを前にするかを調べていたのを僕は見てしまったのだ。


「ううん、言ってない」


「だよね?じゃあ早く行こ!」


 僕達は花火大会がある会場まで徒歩で向かう事にした。会場の近くの神社では色々な出店があった。


「たこ焼きあるよ!あっ焼きそばもあるよ!どっちにしようかなー!」

 ゆいちゃんは子供のように興奮している。


「どっちも買って分けて食べたらいんじゃないかな?」


「それいいね!」


 僕達はたこ焼きと焼きそばを買うと、神社の階段で食べる事にした。膝の上に広げ、半分ずつ順番に食べる。


「私先にたこ焼き食べたいな」


「いいよ」


 箸を二つもらっておいてよかった。そう思っていた時、


「あっやばっ」

 ゆいちゃんが箸を落としたのだ。


「あ、僕のまだ使ってないからこれ使っていいよ!」


「ありがとう」

 

 箸をゆいちゃんに渡し、僕は新しいのをもらう為先程の店に向かったのだか、すごい行列になっていた。このまま並んでたら花火始まっちゃうな、どうしよ。悩んだ挙句、箸は諦めて戻る事にした。


「あれ?箸は?」


「うん、すごい行列でさ、諦めた」


「かずきが嫌じゃなかったらこれ使っていいよ?」

 ゆいちゃんは自分が使ったものを僕に渡してきたのだ。ゆいちゃんはそうゆうの気にしないのかな?そう思ったが、小学校の頃から今までのゆいちゃんを見てきて、僕に対して、いや、誰に対してもあまり気にするような子じゃないって事に気付いた。


「ありがとう」

 僕は箸を受け取り反対側を使って食べた。


「あぁ、そうすればいいんだ!頭いいね!」


「そうかな?」

 本当はそのまま使いたかったけど流石にそんな勇気はなかったのだ。


「もうすぐだね!移動する?」

 ゆいちゃんがよく見える所を知っているというのでそこに向かう事にした。


「確か、ここって聞いたんだけど」


 そこは神社の裏の山を登った所で、本当にここか?って思う程暗くて前が見えない。僕は少し不安になった為戻ろうと言ったのだが、ゆいちゃんは大丈夫って言って聞かずに先々進んでしまった。


「本当に大丈夫なの?」


「もっと進んだら開けてくるかも」


「足元、気を付けてよ!」


「分かって‥‥」


 その瞬間、前を歩いていたゆいちゃんの気配が急に消えた。


「あれ?ゆいちゃん?どこいるの?」


 声をかけても返事がない。焦った僕は辺りをくまなく探した。


「わあ!!」

 僕は足を滑らせてどこかへ落ちてしまった。


「う、いててて、真っ暗だな」


「‥‥かずき?」


 暗闇の中からゆいちゃんの声がした。


「ゆいちゃん?!」


「よかった、誰も来てくれないと思った」


 ゆいちゃんも足を滑らせて落ちてしまっていたのだ。


「ゆいちゃん大丈夫?怪我してない?」


「うん、立てないかな」

 そう言って少し笑っていたが、本当は泣きそうになっていたのを僕は知っている。


 少し時間はかかったが、僕はゆいちゃんをおんぶしてどうにか神社まで戻る事が出来た。


「花火、終わっちゃったね」

 ゆいちゃんが申し訳なさそうに言っている。


「また来年見たらいいじゃん」


「ごめんね」


「気にしないでよ、僕は平気だから」


 正直僕はそんな事よりもゆいちゃんの足の方が心配だった。


 次の日病院に行くと、ゆいちゃんの足は骨折していたようで、しばらく学校も休んだ方がいいと言われたらしい。しかし、どうしても学校には行きたいと言うので僕が手伝う事になった。


 


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