第8話 ゆいちゃんはこうゆう子でした。


「四人でフリータイムでお願いします」


 ゆいちゃんが受付をしてくれている。


「学生証お持ちですか?」


「あっ、持ってないです」


「では18番のお部屋へどうぞ」


「はい」


 僕達は言われた部屋に進む。


「学生証持ってくればよかったねー」

 ゆいちゃんが残念そうに言った。


「お前カラオケカラオケ言うくせに準備悪いよな」

 たいちくんが鋭いツッコミをした。


「仕方ないじゃん!ね、かずきくん!」


「そ、そうだね」


 たいちくんはいつもゆいちゃんに冷たいな、まあ慣れっていうのかな。

 

 僕達は部屋に入ると、今度は男子と女子に分かれて座った。

 

 歌の事で頭がいっぱいで、座る場所まで気が回らなかったが、深く考えなくても案外平気なのかも?と少しこの状況に慣れてきているようだ。


 女子二人はなにやらスマホを見ながら歌う曲を決めてるようだった。


 たいちくんはというと、なにやら早速ピコピコ入力している。


 〜〜〜〜ッス。 


 たいちくんが歌い終えると、彼女は小さく拍手した。歌声はというと、まあ普通といったところ。実際は僕の方が上手いと思う。

 

 が、この空気の中実力が出せるかと言われればそれも微妙だ。僕は知ってる曲の中で一番歌いやすい曲をチョイスする事にした。


「次入れていい?」


 ゆいちゃんが聞くので、先に入れてもらう事にした。


 どんな曲を歌うんだろうとワクワクして待っていると曲が始まった。どうやら女子二人で歌うようだ。


 まあ上手いかと聞かれれば、友達の方はとても上手く歌っていた。ゆいちゃんは‥‥まあ可愛い歌い方だったと思う。


 次は僕の番だ。気合を入れすぎると声が裏返りそうなので落ち着いて歌おう。


「ゔゔん」

 喉を整えて。


 〜〜〜ッ。


 緊張していた割には歌い出すと意外と大丈夫だった。時折ゆいちゃんの方をチラッと見ていたが画面の歌詞を目で追いかけながら口ずさんだいた。そのお陰もあって僕は安心して歌う事が出来た。


 一曲歌えてしまったので僕は調子に乗ってどんどん曲を入れていく。


 ‥‥た、楽しい!!

 僕は今とっても楽しんでいる。青春している、孵化しかけてる!


 フリータイムで入ったカラオケは日が暮れるまで続いた。



「そろそろ帰らなきゃだね!かずきくん時間大丈夫?」


「うん、僕は大丈夫だよ」

 少し調子に乗り過ぎたのか喉が痛い。ちゃんとお腹で歌わなかったからだ。


 カラオケ店を出ると、たいちくんは彼女を家まで送ると言って店の外で解散する事になった。


「ゆいちゃんは送らなくて大丈夫なの?」


 僕は何言ってるんだろ、そこは僕が送るよ!って言えばいいだけなのに。


「かずきが送ってやれ」

 

 たいちくんナイス!!


 心の中でたいちくんに感謝をして、僕はゆいちゃんを送る事にした。



「かずきくんちはどの辺なの?」


「大橋って言う橋あるでしょ、その近くだよ」


「そうなんだ!割と近いね!」


「橋渡ったらすぐだからね」


 僕とゆいちゃんは二人並んで帰る。

 時刻は八時を過ぎようとしていた。


「なんだか肌寒くなってきたね」

 ゆいちゃんは腕をさすりながら言った。


「もう、すっかり秋だもんね」


 もう少し時間が早ければ夕日が綺麗だったのにな。そんな事を思いながら僕は気付いてしまった。


 これって絶好のチャンスなんじゃないかと、今なら言えるかもと。ずっと変わらない僕の気持ち!


「ゆいちゃん!!」


「ビックリした!」


 気持ちが昂り過ぎてつい大きな声を出してしまった。


「ご、ごめん」


「いいけど、なに?」


「唐突で不躾ではございますが‥‥ぼ、僕はゆいちゃんの事が、、す、す、好きぃです!」


 声が裏返ってしまった。

 

 ‥‥ん?薄暗くて表情があまり見えない。


 泣いてる?笑ってる?もしかして怒ってる?


 微かにゆいちゃんの肩が震えているように見える。


「あのぅ‥‥ゆいちゃん?‥‥大丈夫?」

 

 少し遠くからゆいちゃんの顔を覗いてみる。


「大丈夫かって?何が大丈夫なの」


「ゆい、ちゃん?」


 怖い怖い、ゆいちゃんが低い声でそんな事言うもんだから絶対怒ってる。僕は恐怖を感じた。どうしよう、やばい、逃げる?いや、告白しといて逃げるもおかしいし、でも正直逃げたい。


 僕は勇気を出してもう一度聞いた。


「‥‥大丈夫?」


 すると、ゆいちゃんはしゃがみ込んで顔を手で隠している。


「どこか痛いの?本当大丈夫?」


 その時。








「っぷ。っぶはー!!!!!」



 えっなにが起きてるんだ。突然叫びにも似た笑い声?を出すゆいちゃん。


「っあ"あ"ー!やばい、ごめんごめん」

 ゆいちゃんは手で口を隠したまま言った。


「何が起こったのか分からないんだけど」

 僕はどんな態度をとっていいのかさえ分からなくなっていた。


「かずきくん、ほんっとごめん!」


「なんで謝るの?」


「私‥‥めっちゃ笑った。多分人生で一番笑った」


「は?」

 僕は何故笑ったのか理解出来なかった。


「私告白されたの初めてで、それなのになんか年寄りみたいな告白だったから、おかしくって!」


 ゆいちゃんはクスクス笑いながら言っている。僕は少し腹が立った、勇気を出して告白したのに。


「分かったから、もう笑うのやめてよ」


「ごめんごめん。ーっはぁ」

 ゆいちゃんは息を整えると笑うのをやめた。


 そして、しばらく沈黙が続いた。



「正直嬉しかった。笑っちゃったけど」


 先に口を開いたのはゆいちゃんだった。


「うん」


 僕は嬉しかったと言う言葉に期待をしなかった。何故なら告白してお礼を言われたり嬉しかったと言われるのは、振られる前振りだと思っているからだ。


「でも、ごめんなさい」


 ほらね。あれだけ笑われれば脈無しだと誰もが気づくだろう。


「いいよ、気にしないで」


「かずきくんは友達って感じだから」


「そうだよね、もういいよ」


「私、実は好きな人がいるの」


 ゆいちゃんは僕の傷口を大きくしたいのかな。余計な事言わなくていいから。


「そうなんだ」


「ずっと片想いしてるんだ」


 うん‥‥分かったから。聞いてもいないのに言わなくていいから。


「そうなんだ」


「だからごめんね」


 だから分かってるって!最初から!僕は心の中で突っ込んでいた。もしかしてゆいちゃん告白されるの初めてって言ってたから、言いたいだけじゃ‥‥


「ゆいちゃん、好きな人って誰?」


「え?あ、かずきくんの知らない人」


 嘘だな、明らかに動揺してる。


「分かった。じゃあもう帰ろ」


「う、うんそうだね」


 なんだか好きなのにムカつく。でも、不思議と嫌な気はしないな。


 もう少し頑張ってみようかな!!(大声)

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