第7話 適応


 当日になり待ち合わせをしている公園に向かう。僕が着く頃にはみんなは集まっていた。


「ごめん、遅かったかな」


「うちら近いから!」

 そう言って笑ってくれたのはいつものゆいちゃんだった。


「あっどうも」

 ゆいちゃんの友達が挨拶をしてきたのだが、本当に言ってた通りの美人な子だった。

 

「どうも」

 僕も軽く会釈をする。


「じゃあ行こっか!」

 ゆいちゃんの言葉でみんなが動き出す。


 映画館のある所まで四人で歩く。


 たいちくんと彼女は腕を組んでいる。その後ろを僕とゆいちゃんが並んで歩く。


 僕達は高校生らしく、わいわいしながら、でもくだらない、内容も思い出せないような話をしていた。


 映画館に着くと、既に予約していたのだろう、ゆいちゃんが機械にスマホをかざし、チケットを発券して渡してきた。


「ありがとう」


「かずきくんは端っこでいい?」


「うん、どこでもいいよ」


 嘘だ、本当はゆいちゃんの隣がいい。でもそんな事言えるわけないので、端っこ、端っこ、女子を挟んで端っこ。そう唱えながらチケットを握りしめて入る。


 席は丁度真ん中あたりにある。

 

 僕は最後に座ろうと、様子を見ていたが通路が詰まってきた。


「かずきくん先行って」


 ゆいちゃんにそう言われてしまったので先に着席する。


 必然的に通路から奥側の端っこに座る事になる。僕は後ろを振り向く事なく進み、椅子を下ろす時に隣に見えたのは、ゆいちゃんだった。


 やったあー!心の中でガッツポーズをし、ニヤニヤが顔に出ないよう必死に平常心を装う。


 みんなが座ったので、見てみるとやはり女子を僕とたいちくんで挟む形になった。


「そういえば、どんな映画?」


「あれ、言ってなかったっけ?SF映画だよ」


「そ、そうなんだ」


 誰のチョイスだろうと思いながら、映画が始まると、スクリーンの方を向く。


 映画は意外にも面白くて、つい見入ってしまった。まあ映画に行って見入るのは普通の事だろうが。


 僕達は映画館を後にすると、お昼ご飯を食べるためにハンバーガーショップに向かった。

 

 僕がカウンターでメニューを見ていると、


「かずきくん何にするの?」


 ゆいちゃんが横から覗き込んできた。

 

 ち、近い。顔がすぐ近くにある。今横を向くと、息がかかりそうなくらいだ。


 僕は素早く注文すると、スッと横にずれるようにして順番を譲った。


 僕の後にゆいちゃんたちが順番に注文し、商品を受け取ると、たいちくんが席を取っておいてくれたようで、そこに座る。


 ゆいちゃんはハンバーガーを大きな口で頬張る。正直女の子ってかぶりつく系の食べ物を男子の前で食べれないイメージがあったから、ゆいちゃんは食べれるんだなと僕は感心した。


 たいちくんの彼女を見ると、小さな口で。まるでリスのようにちまちま食べていた。うん、大体の子がこうであるだろう。


 僕達は食べ終わると、今度はゆいちゃんがカラオケに行こうと言ってきた。前もカラオケに行きたがっていたが、そんなに歌に自信があるのかな。


 でもまあ、たいちくんが拒否するだろうと思っていたが、今日は意外とすんなりオッケーしたので、僕は焦った。ダブルデートってだけでも緊張してるのに、人前で歌うのは今の僕にはハードルが高すぎる。ましてや、ゆいちゃんの前で何を歌えばいいと言うのだ。


 僕以外の三人はノリノリだった。


 そりゃ小さい頃からクソ真面目で、友達と言える程の友達はいなかったし、遊んだとしても、勉強会という名のガチ勉強会。


 高校デビューの僕にはついていけないかもしれない。いやまてよ、まずデビューさえ出来てない可能性もある。自分なりに変えようと、変わろうとしていたが頭の中で考えるばかりで行動が伴っていない。


 現に、ゆいちゃんと再会しなかったら僕の日常は前と変わらなかっただろうし、こうしてダブルデートなるものも出来ていなかったかもしれない。あぁ、また考えてるだけで時間が過ぎて行く。本当はゆいちゃんともっと近づきたいし、欲を言えば、付き合ったりもしてみたい。


 ‥‥いやそれは図々しいな。


 せめて、二人で遊べるくらいにはなりたい。よし!今の目標は"ゆいちゃんと二人で遊ぶ!"にしよう。


 僕があーでもないこーでもないと考えている間にカラオケに着いてしまった。頭の中で話がそれてしまっていたが、とにかくこのカラオケをどうにか乗り切らねば!

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