第6話 疑問


「えっ、何言ってるの?ゆいちゃん」


「いや、それはこっちのセリフだけど」



 僕とゆいちゃんの間に妙な空気が流れていたその時。


「忘れものしたー」

 そう言いながらたいちくんが戻ってきた。


「‥‥ゆいちゃん?」


 相変わらず真っ直ぐ僕の事を見てくるゆいちゃん。


「どうした?かずき」


 僕のポカンとした顔を見たからか、たいちくんが言ってきた。


「急にゆいちゃんが‥‥」


 たいちくんは少し考えてから言った。


「‥‥あぁ、こいつ眠たくなるとこうなるの、今日は帰れ」


 えっそうなの?そんな事ある?僕は不思議に思いながらも、ゆいちゃんの僕を見る目に耐えられなくなり部屋を出た。


「おじゃましました」


 ゆいちゃんは僕が部屋を出るまでずっと見てきていたと思う、背中に視線を感じていたから。


「たいちくん、どうゆう事?」


 僕は前を歩くたいちくんに聞いてみた。


「なにが?」


「さっきまで普通に話してたのに、急に『あなた誰?』って言われたんだけど」


「だから言ったじゃん、眠くなるとあぁなるって」


「いやいや!その説明じゃ分からないよ」


「は?これ以上どう説明しろってんだよ」


 たいちくんがイラついてる。僕はとりあえずその場は納得したようにして帰ったが、腑に落ちない。


 もしかして多重人格?それか僕の事が鬱陶しくなって早く帰って欲しかったとか?たいちくんとグル?僕はどう考えてもあの状況が起きた原因が分からなかった。


 本人に聞かないと分からないよな、でも、もし触れられたくない事情があったら。


 家に帰りながらその事ばかり考えていた。


 あぁ、せっかくのオフで、しかもゆいちゃんと遊べると思ってたのにこんな形で帰らされるとは思わなかったな。自然とため息が出た。


 とぼとぼ歩きながら僕はさらに考えた。

 ゆいちゃん、あの事は忘れてとか言ってたけど本当は根に持ってるのかな。もう金輪際会う事はない?!僕からは連絡しにくいな。そう思っていた。


 しかし、数週間後にはゆいちゃんのほうからLINEが届く。


「かずきくん、次いつ暇?」


「今度の日曜は空いてるけど」


 何事もなかったかのようにLINEをしてきたので、僕もあえて前の事は言わないようにしようと思い、普通に振る舞った。


「ダブルデートだよ!ダブルデート!しよ?」


「そういえば言ってたね!」


 本気で言ってたんだ、じゃあ別に嫌われてはないのかな。僕は少し考えすぎるところがあり、時々周りに少し面倒くさそうな顔をされる。


「じゃあ日曜ね!詳細はまた連絡するから!」


「うん、分かった!」


 少々強引だなとは思ったけど、僕からはなかなか誘いにくいから逆によかったのかも。


 翌日、部活も終わり自転車を漕ぎながら帰っている時スマホが鳴った。丁度橋の途中で足を止め、スマホを見る。


「日曜の事だけどね、映画見に行こってなったから十時に公園で待ち合わせね!」


「分かった!」


 随分勝手に決めるんだなとは思ったが、どうせ用事もないし‥‥映画か。子供の頃から久しく見に行ってないな。席の並びとかはどうなるんだろ。たいちくんは彼女の隣だろうから、ゆいちゃんと友達を挟んで両端に僕とたいちくんかな。女子が両端も考えにくいし、男女交互って事は流石にないよな。


 僕は何故か無意識にイメトレをしていた。

 

 映画館は暗いから、もしゆいちゃんの隣だとドキドキして映画に集中出来ない自信がある。結局のところ、当日になってみないと分からない事を、悶々と考え過ぎる癖のせいで、行ってもないのに疲れてしまっていた。


 日曜の十時に公園集合、四人で映画を見に行く。何故か三人で集まる時より緊張するのは、思ったよりゆいちゃんが可愛くなってたからだと思う。この頃には僕はこの前の事をすっかり忘れていた。


 そういえばたいちくんとは連絡先交換してないな、まあ用事ないから聞かれもしないだろうけど。


 今日が金曜だから明後日かすぐだな‥‥。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る